六話 隠し事
ディオーレは観光の町である。
世界でたった一つの空中都市という魅力あるため富裕層の人々が訪れる名所となっている。
また浮遊石が取れる鉱山もあり二つの収入源を持ち、国にも負けない財力がある。
「ここに入るのか?」
「ええ、そうですよ」
ここで年齢確認。
「今何歳?」
「ちょっとロイ、女性に歳と聞くって……」
「十八ですけど……」
「あ、普通に答えるのね」
国にもよるが成人はだいたい十八歳なので酒を飲めるが、この歳で酒場に行くなど一般的には考えられない。
「まあ。ラーシャが入るっつうなら俺らも行くだけだな」
「あんたは入りたいだけでしょうが」
扉を開けると同時にからんからんと音が鳴る。
壁にかかっている火は弱く燃えてその明かりはなんとか部屋の様子がわかるが、それでも暗くなんとなく重い雰囲気を漂わせている。
カウンターには一人の男がグラスを拭いている。
その目は鋭く、敵意を持ってこちらを凝視している。
その場の沈黙を破ったのはラーシャだった。
「あ、あのよろしいでしょうか」
「今はまだ準備中だ。じきに雨が降る」
急に天気の話を持ってきたが、ラーシャは間を空けることなく言う。
「そ、それなら鉱山に行って石取らなきゃな?」
「ねえ、ロイ、あれ何言ってるの?」
こそこそと耳打ちした。
「さ、さあ、暗号みたいな何かかな?」
ここにきて全く知らない男と知らない話で、正直おいていかれた感が否めない。
「ほう。いいぜ。入んな」
マスターらしきその男はカウンターの一部分の板を上げ中に入るよう促す。
「では入りましょう」
「ラーシャってまさか凄い大物?」
「裏世界の帝王だったりして」
「まさか、そんな事あるわけないでしょう?」
笑顔で答えるラーシャだがその裏を考えるとぞっとする。
カウンターの内側の扉は地下へと通ずるものだった。
舗装はされておらず土でできたトンネルみたいだ。
空気がひんやりと冷たい。
地下まで地上の熱が通らないため肌寒くなっている。
階段が終わりを迎え大きな部屋へと出た。
「誰だ、てめえら」
声の主は身長が高く、それに合った横幅もある。
「私たちはある人物を探しています」
「それより誰だって聞いてんだ。先に答えろ」
ラーシャは口をつぐんですぐには返答しなかったが、やがて諦めたように言った。
「私はここで捕まっているセシリア・ヴァルフガング・ベルナール第二王女の名姉、ラーシャ・ヴァルフガング・ベルナールです」
何を言っているんだ?
「え?どういうこと?」
アリアスも困惑しているようだ。
「はっは、ありえねえ。王女がここまでくるかよ」
真っ先に否定したのは得体の知れぬ男だった。
「証拠ならあります。これを見てください」
提示したのは円い何かだった。
「ばかな。それを持つ事が許されるのは帝国皇帝の家系である者だけだ。つまりこいつは……」
その男が言うには本物なのだろう。
つまりラーシャは正真正銘の帝国皇帝の娘という事になる。
「はい。ですので会わせてくださいませんか?」
「信じらんねえ度胸だ。いいぜ。きな」
わりと素直に通した男であったが、そんな事はもはやどうでもいい。
「何が何だか全くわっかんねえ」
「申し訳ございません、ロイさん。妹と会ってから全てお話しします」
事態が呑み込めないが、男の案内が始まる。
「はっは、気に入った。帝国の人間がここまできたのは初めてだぜ」
俺はどうも気に入らない。
何せラーシャは一番憎んでいる国の者だから。




