六十五話 ぶらぶらルーツィエ
日差しは机側の窓から入ってきた。
朝はとても寒い。
起きるのが億劫になる、のはいつものことではあるが。
「ロイ……起きてる?」
「寝てるよ」
「あっそ、じゃあ起きて」
「了解……」
別に今日はすることは午後からでもできるからもう少し寝ていたいものだ。
ロイはスローモーションのようにゆっくりと起き上がった。
隣のベッドではアリアスが天井に組んだ手を向けて伸びをしている。
それを終え、再びロイに話しかける。
「で、どこから探す?」
「えっ?何を?」
アリアスは呆れた表情をしている。
「だから、昨日言ったでしょ」
「ああ……思い出した」
ただ当日になると途端にやる気なくなるよな。
浮かんだ雑念と眠気を吹き飛ばすため頭を横に振る。
「でもこんな朝早くから起きてる奴なんていないと思うぞ」
「……そう、だけど……」
何か言いたげだ。
その何かがわかれば苦労しないだろう。
「起きちまったのはしょうがないし行くか」
「……うん!」
笑顔で頷いてくれた。
本当は寝ておきたかったけど、アリアスのその顔を見たら起きるしかないな。
「さて、出発するか」
二人は部屋を出て、外を目指した。
外は晴天とまではいかないが、良い天気であった。
今は冬なので日差しが弱い。
時々吹く風が肌を指すように寒くさせる。
「うう、さぶっ!」
アリアスは身体を震わせ、手を肩辺りに当て、自分を抱くポーズをしている。
「くっそ寒い。帰ろう。腹減った」
「ええ……兵舎出て三歩で?」
「ああ、散歩は終わりだ」
「ドヤ顔でこっち見ないで」
あれぇ?今うまかったよな?
「無駄話してないでさっさと行くわよ!」
「目的地決まってないのに……しかも無駄話なしって」
「うるさい」
「ちょっとまって、どうした!?」
女心とは変わりやすいらしいが、変わりすぎではないだろうか。
百八十度変わってるよ!
「私うるさいの嫌いだから」
「楽しくお喋りしていこうよ!?」
無言で二人早朝ウォーキングって、トレーニングか何かですか?
「わかったわ。じゃあ面白い話でもしといて。聞き流すから」
「流してないで受け止めてくれよ!」
一人で一方的に話すって悲しすぎるだろ!?
「なんでそんな機嫌悪いんすか?」
「ドヤ顔が気に入らなかった」
「二度としないんで普通に接してもらっていいですか?」
「考えとくわ」
考慮の対象にしていただき、誠にありがたく感じるぜ。
さて探すとは言ったものの、当てがまったくない。
「どこから探す?」
「ぶらぶらしてたら会えるんじゃね?」
あんたらしいわね、と首を軽く捻った。
その辺りをほっつき歩けばいいかと歩き出す。
「おっ、早速第一国民発見」
「範囲が大きすぎて、っていうかここ着いた時すでに会ってるけど、別に人に」
「まあ、細かい事はいいだろ」
こういうのはノリと勢いが重要だ。
その第一国民は若者のようだった。
農作業をしている。
若い人は大事な労働力だ。
「あれなら話が合うんじゃね?」
「じゃあ話してきて」
「えっ、なん」
「この前私が行ったでしょ?」
まだ覚えてたか。
さすがに舌打ちはせず、その者のところへ行った。
しかしあれだな、昔からアリアスはあんまり初対面とは話したがらない。
俺もだけど。
「あ~い、この辺にパウ……」
名前を呼び終える前にこちらを見た。
それは知っている顔だった。




