六十四話 決意の夜
やがてロイは口にした。
考え抜いて、言葉をまとめて、それは人生で一番考えたと胸を張って言えるほどだ。
「俺は、ロザリンドの兵を、殺す」
「……そう」
ゆっくりと聞き取らせるように言った。
「ただ、それはアリアスに一人も殺めはさせないためだ」
「へぇ……」
「自分勝手なんてのは承知だ。それでも……アリアスの分まで背負ってやる」
「それが決意、ね」
頷く。
アリアスはロイが行くなら自分も行くって言うだろう。
頑固な一面もある。
それはここまでついて来たことが証明している。
だからアリアスには自分の補助をしてもらおう。
そうすればアリアスに違和感を感じられることなくいくるだろう。
「……まあ、いいんじゃない?あたしはそれに従うだけだし」
「ありがとうな。クロエ」
「いいってこと。それよりホントにいいの?」
クロエは改めて聞き直した。
確かめるように、ロイの心に刻みこませるように。
「もちろん!足りない頭で考えた結果だ」
「もう自虐するのね……」
「言われる前に言う作戦だ」
自分で言っていてあれだけど悲しい。
ともあれ方向は決まった。
アリアスの分まで背負う。
もしそれを本人に伝えたなら、余計なお世話だというかもしれない。
いや、九分九厘言うだろう。
だとしても俺はこの考えを変えることは絶対にしない。
「わかったわ。それじゃあ」
「ああ、おやすみ」
そう言ってロイは眠った。
そんな時間になっても眠ってはいない人物がいた。
その男は義足であった。
昔に起こった事故で失ったものだ。
不運な事故ともいうべきもので、誰に責任があるわけでもない。
心の中でもそれは納得している。
また日常生活、戦闘においてもそれほどハンデになったこともない。
魔法によって操ることができているからだ。
寝ている時以外はほとんど魔力を込めている。
そうしていないとただの棒のようなものだ。
「ファニクスぅ~、まだぁ~?」
ファニクスと呼ばれた男は机に向かい、黙々と何かを綴っていた。
呼ばれて少し不機嫌な顔をしたが、呼んだ者の方を見る時にはいつもどおりに戻っていた。
そうしないとまた文句を言われてしまう。
細かいところまで気が回ってしまうのが彼女の特徴だ。
「先に寝ていたらいいだろう、アレクサンドラ」
律儀なのかずっと後ろにあるベッドで寝ころびながら待っている。
本当なら宙に浮いていられるが、なぜかそこにいる。
「だ~か~ら~、ファニクスが寝るまで私も寝ないって何回言った?」
「そうだったな」
と、言ってファニクスはペンを置いて、肩を回す。
いつだったかそんなセリフを聞いた気がする。
あれはもう四年前だったか、今の地位に就くため、身を粉にして工作していたときだ。
無理が祟ったのか、身体を壊した。
それを気遣ってだろう、その頃から言うようになった。
ファニクスは天井を見ながら思い出していた。
席を立ってアレクサンドラがいるところへ行く。
「あらぁ~、なぁに?」
「寝るだけだ」
何かできるわけがない。
なぜならアレクサンドラには触れられないからだ。
「まったく……面白みがないわねぇ」
「あってたまるか……明日も早い」
「私には関係ないけどね」
「俺にはおおありだ」
早く姫を探さなければ。
しかしどこを探せばいいというのか。
目撃情報があったここにさえすでにいなかった。
明日はここを探して、いなければ近くの国に行くとしよう。
注意して探さなければいけないい。
連邦内で帝国の、それも幹部クラスがいるなど知られれば、もはやこの世界に居場所などなくなる。
「おやすみぃ~、ファニクス」
「ああおやすみ」
ファニクスは蝋燭を消した。
ここ、ロザリンドにいるのも明日までか。




