六十二話 四英雄の内情
ロイは驚きの表情だ。
「ラインヒルデっていう人はね。争いの方法を考えた人なの」
「争いの方法?」
「ええ、今の戦いの基礎を築いた人物でもあるの」
「細かいルールをか?」
うん、とアリアスは頷く。
「それでラインヒルデを入れて四英雄にするか、って今でも協議されてるみたい」
「外されない理由ってのがあるのか?」
「戦う方法を考えた、抗う手段を確立したのは大きいわ。例え多くの人にはマイナスでも上の人たちにはプラスでしょ?戦いの神も崇められてるしね」
そんなもんかと納得する。
いつの時代も変わらないものだ。
「それぐらいかしらね。ざっくりとだけど」
「へえ。知らなかった」
「学校の範囲なんだけど?」
「よく卒業できたよな、俺」
心の底からそう思う。
アリアスがいなければいつまでも学生生活とかいう地獄が続いてたわけだ。
「まあ、つまりその四人が世界の根幹を創り上げた感じか」
「そうね。ヱレクタム歴は彼らの死を追悼して始められたぐらいにね」
「すげぇな」
ロイはいつもどおりに戻っていた。
それを見たアリアスは安堵から来る笑みをこぼしていた。
「……よかったわ」
「ん、何が?」
「ふふっ、なんでもない」
そう言っておどけて見せた。
その時ノックの音がして、扉が開く。
それはグレゴールだった。
「飯の準備ができた。こい」
「おう」
二人は部屋を後にした。
数十分後また二人はこの部屋に戻ってきた。
「うん、食ったけどロザリンドに比べればなぁ……」
「ロザリンドはお店で食べたからででしょ。……それにしても質素だったわね」
連邦に食料を取られているとはいえ、兵士に出す物すらあれでは士気も上がるわけがない。
食堂での会話もあまりなく、活気がこの国と同様で寂しいものだった。
さきほどと同じく向かい合う形でベッドに座る。
「ただだからさすがに面と向かっては言えないよな」
「それやったら二度と話しかけないでほしいところね」
「怖ぇ……」
「うそうそ、半分冗談」
もう半分は本気だったんですね。
「さて、明日はなにするかな」
ふとロイは思い出したように言う。
開戦まで三日ある。
遅いようで早いようで微妙な時間だ。
「思ったんだけど、前に会った偽勇者のパウロがここに来てるんじゃなかった?」
「そう言ってたな。暇だし探してみるか」
そうだなと肯定の意を伝えて、欠伸をした。
「そろそろ寝るか」
「そうね。明日もあるし」
「だな。おやすみ」
「うん、おやすみ」
机の上の蝋燭を消して横になる。
が、すぐに寝れるわけではない。
「へぇ、覚悟、ねぇ……」
クロエだ。
枕もとに立てかけている銃の精。
それは毎晩のように話しかけてくる。
それを待っている自分がいる。
暗闇で姿は見えない、可視状態ではないのかもしれないが、声は聞こえる。
それに対し、脳内で返事する。
(まったく、嫌なこと思い出させてくれるな。それも寝る前に)
「あの時の顔、見てられなかったわよ」
(わかってるさ。それも含めて気分が晴れなかったからな)
「わかってるんならあとは実行するだけよ」
クロエは簡単に言ってくれる。
言うのとやるのでは雲泥の差だ。
「あたしの主なんだからしゃっきりしなさい」
(これだけ主に言えるもんか?眷属っぽくねぇな)
「聞こえてるわよ?」
(すみません。眷属さん)
一瞬の間が開いた。
睨まれているような気がして背筋が凍った。
「……まあいいわ。それより覚悟があるかって話」
それはなぁ、とロイは普段出さない真剣な口調で話し始めた。




