六十話 戦いの理由
休憩も終わりグレゴールがロイに聞いた。
頭からの出血はアリアスの魔法で治してもらった。
「まず何から聞いたらいいのやら」
頭を悩ませているのはグレゴールだ。
「そっちの質問に答えるかわりにこっちにのも教えてもらうからな」
「いいだろう。まずは……その奇妙な武器からだ」
「いいぜ」
ロイが知っていることをあらかた話した。
ただクロエの話はしなかった。
話す必要がないと思ったからだ。
「ほう。なんとも信じがたい話ではあるが……この目で見たからには信じるしかないな」
「俺も最初は驚いたもんだ」
最初はなにも聞かされず指示通りに撃ったら出ましたって感じだったなと思い出した。
「次はこっちの質問だ」
「いいだろう」
「……アリアス頼む」
「何聞けばいいのか忘れたのね」
わかってたふうな口調だ。
「戦いを始める理由よ」
グレゴールは眉をひそめた。
「……この国の惨状はもう見ただろう。活気はなく、作物を育てる元気もない。連邦加盟国に奪取、とまではいかんが配布される」
「それじゃ誰も頑張ろうなんて思わないわね」
「ああ、それに連邦内の国には序列がある」
ロイは一つ疑問に思った。
「その序列は誰が決めてるんだ?」
「ジークリンデ国だ」
聞き覚えがない国だ。
「ジークリンデは、大きい声では言えないが兵力ではロザリンドに劣り、作物の産業はここに遠く及ばない」
「ならなんでそんな国トップなんだ?」
「それは神代の時代の話になる」
また壮大な話だな。
「四英雄は知っているな?」
「お、おう?」
「あんたは後で教えるから黙ってて」
「すみません……」
静観するしかねぇ。
「四英雄の一人、イーヴァイン・メルテザッカー様がお造りになられた国だからだ」
「それがそんなに偉いのか?」
「無論。この世界には神代の時代を崇めるものは非常に多い。その時代に生きて数々の功績を残したとされる方がお造りになった国だ。学校では習わなかったか?」
授業はほぼ寝ていたので記憶にない。
昔は昔で今は今だと考えているロイからすれば変な話だ。
「そのイーヴァイン様が後継者を選んだ。現国王の先祖だ。だから今でも強い権力を持てるというわけだ」
アリアスは腑に落ちないようだ。
「じゃあ他に四英雄が造った国っていうのは?」
なるほどな、とロイは思った。
対抗できる国となればそれぐらいしかない。
「あるかもしれんが、記述には書かれていない。書かれていたのかもしれんが保存状態が悪くてとても読めるものではなかったと聞く」
二人はグレゴールの話を聞き少しは納得した。
アリアスは角度を変え、次なる質問をした。
「序列が上がるとどんな得があるの?」
「実はそれほど重要なものではないのだ」
「それなら命をかけてまで戦う必要なんてないじゃない」
珍しくアリアスは言葉に熱がこもっている。
「そうなんだが……難しいものでな。国としての矜持なるものだ」
「それだけのために」
「違う。それこそが大切なものだ。普通はわからない。俺にだって完全に理解したわけじゃない。ただ国王のために動くだけの兵士だからな」
おそらくは本心だろう。
自分には一生かかっても理解できない。
「質問は終わりか?」
「そんなところね」
「戦いは三日後と決まった」
「早いな」
簡単に決まってしまうものなのだろうか。
「ああ、ロザリンドが兵力が下がっているのは今しかない。早めにしないと差をつけられてしまうからな」
「勝てるのは今だけってか」
グレゴールは無言で頷いた。
自国の兵力がないことへやり場のない苛立ちがあったのかもしない。
「……では行こうか」
「どこに?」
「国王の元へだ」
「はぁ!?」
嘘だろと言いたくなるがこの男は冗談は言わなそうだ。
二人はグレゴールの後についていく。
壁一面ぐらいもある扉。
両端には門番。
この向こうが玉座の間だ。
「では入るぞ」
「おう」
荘厳なる扉は開かれた。




