五十九話 決着
以前意識ははっきりしないままだがグレゴールの姿だけは見えている。
ほとんど気力で立っているようなものだ。
「助かったぜ……アリアス」
「ならそいつを倒して見せて!」
とんだご注文だ。
二人がかりでも傷つけることすらできなかったのに、魔力が底を尽きかけているこの状況でもまだ勝利を望むとは。
ロイは、はは、と乾いた笑みを見せ言った。
「了解だ。お姫様ぁ!」
今更作戦なんてものは役に立たない。
相手は剣術のみ、こちらも同じく。
その条件が一緒ならあとは実力の差だ。
ロイはアリアスに向け、願いを言った。
「ここからは手出ししないでくれるか?」
アリアスは驚くだろう、そう思っていた。
「わかったわ」
笑顔で言った。
勝てると確信があるわけではない。
むしろ負けが濃厚だ。
それでも理由を聞かずにいてくれた。
考えていることがアリアスにはわかるようだった。
「一対一での勝負か。思っていたより見どころがあるな」
「それだけじゃないぜ」
銃を背負い、ソードブレイカー一本構えた。
「近接だけか。ますます好意を抱いてしまうな」
「さあ、おしゃべりはこのへんにして始めようぜ」
「そうだな」
グレゴールは剣の魔法を解いた。
熱気がなくなり、ただの剣に戻った。
これで対等。
体力や疲労に違いはある。
ロイは圧倒的に不利だ。
「いかせてもらうぜ」
「こい!」
グレゴールへ向け駆ける。
全速力の半分ぐらいの速さだ。
息も上がって方で呼吸をしている。
それでも見ている先にはくっきりグレゴールの姿。
それ以外はぼやけているようだ。
ナイフが下からグレゴールを襲う。
それを避けるとも躱すともしない。
剣で受け止めた。
チンケなナイフなど兵長の剣には敵うわけがない。
もう一方の片手もナイフを握る。
その持ち方は剣のそれに酷似していた。
「なかなかにいいぞ」
「これでも余裕ってか。まるでクラインみてぇだな」
「クライン……だと……!?」
その名に異様な反応を示した。
一瞬の隙なようなものができた。
ロイはここぞと言わんばかりに鍔迫り合いの状態を押し切って強引に解く。
そして逆方向から斬撃を入れる。
さすがは兵長だ。
それにも容易く対応してくる。
少し力を込めていたようで身体ごとのけ反ってしまうほどだ。
グレゴールは手を緩めることなくロイの首に向けて剣で斬りかかる。
抵抗する術はなく、ロイはただ目を閉じた。
だがいくら待っても痛み一つ感じない。
あれだ、死んだ。
「ロイ、目を開けろ」
そこには剣をこちらに向けたグレゴールがいた。
剣の先は首に当たる寸前で止められていた。
「悪いが、俺の勝ちだ」
「あ~あ、負けたな」
ロイは天井を見上げた。
前にも似た感覚だ。
「少し休憩でも入れるか」
「ああ……」
と言って類は倒れるように座り込んだ。
身体のほぼ全てが限界にきたようだ。
「おいおい、大丈夫か?」
「はは、ちょっとな」
「それだけやれれば後の戦いでも十分だ」
グレゴールは背に剣をしまった。
ロイもナイフを懐に戻す。
アリアスもこちらに歩み寄ってきた。
顔色を見てもさほど疲れてはいないようだ。
「お疲れ」
「負けちゃったけどな」
「でも約束は守ってくれたでしょ?」
「そうだな」
アリアスとロイは笑いあった。




