五十八話 対グレゴール戦②
先に動いたのはグレゴールだった。
剣先をロイへ向け、ただ駆ける。
ソードブレイカーで折る、流す、飛ばすなど考えてはいけない。
それをさっきやってこのザマだ。
躱すという手もある。
だがリスクが大きすぎる。
答えは一つだ。
「クロエ頼んだ!」
「全部丸投げみたいね……」
そうは言ってもなんやかんやでやってくれるのがクロエだ。
「いつもより多めに込めなさい」
「?お、おう」
言われるがまま手に意識を集中させる。
そして引き金を引いた。
飛び出たのはいつもの弾だ。
違うのは数。
三の弾が平行に並んで飛んでいく。
「す、すげぇ」
「弓なんかとは違うわよ」
「いや弓とか以前の問題だけどすげぇ」
グレゴールはその真ん中へ突っ込む。
持っている剣はまだ熱を帯びている。
魔法が解けていない証拠だ。
「おうらぁあ!」
気合の入った声を上げ、それを叩き切る。
速度を落とさずロイへと向かう。
残り二つの弾は真っ直ぐ飛ばず、グレゴールを追うように旋回する。
「ほう!追尾とな!」
身を翻して剣を構える。
平行に斬撃を飛ばし同時に斬った。
「うっそ!マジかよ!?」
「もうお終いか?」
「残念。本命はこっちだったりして!」
アリアスは唱えた。
「魔法氷結」
「主席は本当らしい」
「さて魔法なしでどうやって戦う?」
「魔法なんてものは所詮補助だ。兵士は片手に武器さえ持っていれば勝機はある」
だったら近接で勝負だ。
「さあ、こいよ!」
「いわれなくとも」
両者互いに向かって駆ける。
次は受け止めて見せる。
勢いそのままに剣とナイフがぶつかり合う。
甲高い金属音が響き渡る。
鍔迫り合い、だが明らかにロイが押されている。
「今度は受け止められたか」
「これでも余裕ってか」
「こういう時は余裕をなくした者から去っていくんだ」
確かにそうだと言って銃口を鎧に付きつける。
「悪いな。こういう時はルール守ってる奴も去っていくからな」
短時間でできるだけの魔力を詰め込んだ。
渾身といっていい一発を放つ。
魔法陣は出た。
しかし肝心の弾が出ていないように見えた。
「あ、あれ?}
「言ってなったな。この鎧は特別でな」
「それは先に行ってほしかったぜ!」
一旦退くか。
腕も限界。
峰で受け止めているため刃はこちらを向いている。
これ以上続ければ自らを傷つけかねない。
「逃げるか。それもいい」
「っく!」
「戦いは選択だ。一つのミスが全てを狂わせる」
安い挑発なのはわかってる。
ただ退きたくはない自分がいた。
「焼き尽くす炎!」
この距離での火属性は諸刃の剣だ。
だが回ってくるどころかその鎧に吸収されるかのように消え去った。
「だから選択を間違えば全てがくるうだろう。今身をもって体感したはずだ」
意識は朦朧、魔力を使いすぎた代償か。
結局自分は成長したように感じてただけらしいい。
立ってウィルだけでもう限界だ。
今すぐ倒れてしまいたい。
その時、ロイの耳にその言葉だけはっきりと聞こえた。
「ロイ!しっかりしなさい!私を守るんじゃなかったの!?」
ああ、そうだ。
確かに約束もしたな。
暗闇に落ちかけていたロイをその言葉が救った。




