五話 空中都市
翼龍を起こして鞍を着ける。
その様子を傍から見物する。
数人が手慣れた手つきで着々と離陸準備をしている。
「よし、あんたら三人、それに舵取る俺の四人だな。久しぶりの仕事だ。任せときな」
翼龍は軽く欠伸をした。
乗り心地という言葉が霞むほど尻が痛い。
鞍で多少ましになろと思ったがそれは幻想で、実際は鞍自体が硬くまた冷たい。
「さあ、出発するぜ」
「ああ、早くしてくれ。もう地面が恋しい」
四枚の翼が交互に羽ばたく。
巻き起こされた風が近くの草木を激しく揺らす。
「私、初めてなんですよ。こういうのに乗るのって」
「そうね。私もね」
「これが最後であって欲しい」
ゆっくりと上昇していく。
そしてそこに顔面蒼白のロイがいた。
「あんた高い所とか昔から苦手だったもんね」
「空って言葉が出た辺りから嫌な予感がしてた……」
下を見るともう地面が遠くなっていた。
少し横にはさっきまでいた町も小さくなっていく。
「はっはっは。そうか。でも大丈夫だ。二、三時間で着くからなあ」
「大丈夫かどうかは自分で決めるもんだ……」
反論を述べるだけで精一杯だ。
それにしてもなぜこいつらは平気なのか。
落ちたら死ぬという発想はないのか。
「結構早いね~」
「そうですね。風も気持ちいいですし」
一列にラーシャ、アリアス、ロイ順で並んで乗っているのによく会話できるな。
「それにしてもロイさんが高い所が苦手って意外ですね」
高所にいるということを紛らわすために話してくれる気遣いに感謝しかない。
「そうだな。子供の時のトラウマがな……」
自分のミスを話すのは恥ずかしいのでごまかそう。
「ロイってば小さい時に浮遊の魔法使おうとして失敗して落ちちゃってから地面から離れるのが怖くなって」
「そうなんですか。ロイさんらしいですね」
人の失敗談を笑うんじゃない、しかもその人の前で。
しかし談笑して時間を潰せたおかげで、気付けば男が言っていた時間が流れた。
夕日をこれほど近くで見た事がなかった。
あまりの美しさに高所にいる事実も忘れてしまうほどだ。
「しっかし見えてこねえな」
「もうそろそろ……あれだ」
目の前には雲しか見えないが男は何かを見つけたようだ。
雲を突き抜けると現れたのはむき出しの土だった。
「なんだこれ!?」
「これはディオーレの一番下の部分だ」
翼龍はぐんぐんと上昇するとその上に都市があった。
その都市の端の草原に向かっているようだ。
「ほらあそこに着地するぞ」
一直線に降下して地面ぎりぎりで翼を羽ばたかせゆっくりと地に足を着かせる。
「よし、やっと地面だ……」
誰よりも先に飛び降りる。
続いてラーシャ、アリアスも降りた。
「へへ、ご利用ありがとさん。また降りる時はよろしくな」
男はそのまま降りることなく、翼竜を操り再び空を飛んでいった。
「さてロイさん、アリアスさん。行きましょうか」
「そうね。それに初めての町ってなんだかわくわくするね」
三人は町へ向かった。
町は帝国のものとは違って大きく分厚い城壁はなく明確な町と外との境界がなかった。
帝国や他の国では外敵がうろうろしているため町を守る必要があるため城壁を造らなければいけない。
しかしこの空中都市周辺には外敵となるモンスターが存在しないため造る必要がない。
よってこのようにどこからでも入れるような町造りとなったのである。
「確かこちらだったような……?」
ラーシャも初めてのようで迷っているようだ。
それでも行きたい所には着いたようだ。
「本当にここなの?」
アリアスが問うのも無理はなかった。
「ここ、酒場じゃないか」




