五十五話 近づく戦い
時間を潰すために城下町へと出る。
城下町と呼べるほど、町と呼べるほどのものは存在しない。
家はぽつんぽつんと建っているだけで大通りもなければ楽しめるものなど何一つない。
それでも昔ここにいた時は楽しかったような記憶がある。
子供だったから全てが新鮮に見えたのだろう。
背が高くなった所為で見える世界が変わったらしい。
高い所に手が届く代わりに小さい変化に気付けない。
「ねぇ、どこを見てたの?」
アリアスの一言で我に返る。
「ああ、ちょっと昔を思い出してたかな」
「そうなんだ。実は私も、かな」
それほど覚えてるわけではない。
景色もすっかり変わっている。
「住んでた家はどの辺だったっけな」
「どこも同じ風景だし覚えてないなぁ」
見渡す限り田畑がある。
こうして横になって歩くのも十年ぶりくらいだ。
お互い成長した……?
って事にしておこう。
「店ってあそこしかないのか?」
「そう……みたいね」
国を一通り見て回った結果ここしかなかった。
ほとんどそこらの家と変わらない外見だ。
その他には国にありそうな店が極端に少ない。
都市であるディオーレにの方が何倍も栄えている。
自給自足の面が大きいと全てを自分たちでできてしまうのだろうか。
「入ってみる?」
「他にないしな」
中は綺麗に椅子や机が並べられていた。
客は誰一人おらずこの国同様閑散としている。
奥には店員らしき人物が驚いたような顔でこちらを見ている。
「な、何名様でしょうか?」
「二人です」
「どの席でもご自由に……」
その店員は珍しいものでも見ているようだ。
少なくとも客に向ける目ではない。
とりあえず窓際の席に座った。
「はぁ。……思ってたのと違う」
自分の中で昔が美化されていたとよくわかった。
期待を下回りすぎてため息が自然と出る。
「そうね。十年も経ってたってここまで変わるのかな?」
「人も少ないな」
「言ってたけどこれから戦いだから?」
「それもだけど……う~ん、謎だ」
若者は戦いにかりだされる可能性もある。
兵を集めるぐらいだからそれが一番妥当だろう。
「まあ、食べてから兵士に聞けばいいだろ」
腹が減っては人には聞けぬ。
注文したものを食べ終え外へ出た。
今いるのははさっき兵を募集していた場所だ。
その時よりは人が増えてはいるがまだ少ない方だろう。
「アリアス今度はそっちの番だぞ」
「……ちっ」
「舌打ち!?嘘でしょ!?」
去り際に、こいつ覚えてやがったな、みたいな顔していた。
番とか言い出したのアリアスの方なのに。
舌打ちをしつつも許諾したアリアスが帰ってきた。
「どうだった?」
「何が?」
鋭い眼光が突き刺さる。
「いや、その、ここで集合して何するのかな~って……」
「もうすぐ兵長の話があるから」
「承知しました」
怖ぇぇええ。
オーラが違うぜ。
アリアスに怯えていると城から一人の兵が出てきた。
言っていた兵長だろう。
鎧を纏った少しばかり老け顔の男だ。
アリアスが話していた兵に何か言っているようだ。
その後すぐにその兵は皆に声を上げた。
「兵長がお見えだ。全員集まれ」
兵士希望者が兵長と兵士の前に立つ。
ロイとアリアスもつられてそこへ行く。
すると兵長はアリアスを見て独り言を言った。
「女?まあいい」
その言葉はさらにアリアスをイラつかせてしまった。
「あ、アリアスさん?落ち着きましょう?」
「だったらロイ、あいつらごと燃やして」
「それはできないです……」
兵士に話した時何か言われたのかな?
こっちにとばっちりが来るからやめろ。
「諸君、よくぞ集まってくれた。感謝する。それに……」
長いお話の始まりだ。
こういうのを聞くのは怠い。
八割どうでもいい事しか言わないので聞くだけ無駄だ。
数分が過ぎようやく終わった。
集まった者たちは散っていく。
アリアスに要約してもらおう。
「何言ってた?」
「三日後あるからそれまで身体を休めるよーにって」
「休める場所ねーよ」
「兵舎があるでしょ」
ロザリンドの時もそうだったな。
「ちょっといいか?」
振り向くと兵長が立っていた。
「なんだ?」
「お前らここの者じゃないだろ?」
「この場合どっちなんだろ?」
生まれはここだったはず。
ただ小さい時の事だからここの者という部類に入るんだろうか。
「まあ、ちっさい時にいたかな」
「そうか。今は少しでも兵がほしいところだが……お前はいいとして、そっちは戦力になるのか?」
それには嘲りの意はなく、ただ純粋に聞いているようだった。
「ええ、少なくとも魔法の学校では主席だったけどね?」
珍しくアリアスが自慢した。
帝国の名を言わなかったのはここが連邦に入っているからだろう。
「なにっ!?本当か?」
「本当よ!」
男はのけ反るように驚いた。
「俺はグレゴールだ。よろしく頼む」
「俺はロイだ。こっちはアリアス」
「アリアス、失礼した」
グレゴールは深々と頭を下げ謝った。
「ま、まぁ、わかってくれればいいけど」
「それで早速だが少しいいだろうか?」
「ロイどう?」
「俺は別にやる事ないし、いいぜ」
なら決まりだとグレゴールは言った。
「城を案内する。来てくれ」
全くのよそ者ではないが長くこの地を離れた身だ。
心に遠慮がないわけではなかった。
「いいんですか?私たちもしかしたら帝国とかロザリンドとかから送られてきた人かもしれませんけど?」
アリアスもそれに気付いていたらしい。
だから試した。
「はっは、心配には及ばない」
二人は不思議そうな顔でグレゴールを見た。
「敵国が子供、しかも一人は女だ。それを送り込んでくるなんて到底考えられない」
「まあ、一理あるわね」
「しかしなんでロザリンドと戦うと知っている?」
ここで反乱軍の名を出すか迷っているみたいだ。
助け舟を出すか。
「結構有名だろ」
「情報が出ていないわけではないが……確かに知っている者は少なくないだろうな」
アリアスはふぅ、と一息ついている。
上手く助けられたようだ。
「では行くとするか」
人生で初めての城だ。
一体中はどんなものがあるのだろう。




