五十四話 静寂の国内
ようやく二人はルーツィエ国付近の平野に着いた。
日は高いところまで昇っており、雲一つない快晴。
「じゃあ今回はクラインにつけておくぜ」
「ああ、頼む……」
「じゃあな」
「おう……」
男はグッと親指を立てて、翼龍を操り空高く舞い上がっていった。
ロイはというといつも通りげっそりとした顔をしている。
空腹と空のダブルパンチで元気度がゼロに限りなく近いロイを励ました。
「ほら、元気出して。すぐにルーツィエに着くから」
「そうだな。着いたらまず飯だ……」
希望を見出して目的地へと向かう。
男はここから南に少し行けばルーツィエ国に着くと言っていた。
二人はそれに従い歩いていく。
十分程度歩いたところでそれは見えてきた。
他の国と変わらないような熱い壁がある。
ちょっとやそっとじゃびくともしないような造りだ。
「やっと着いたね」
「ああ、懐かし……こんなんだったっけ?」
「う~ん、外から見る機会がなかったからでしょ?」
「中はかわってるのかなぁ」
なにせ十年ぐらい経っている。
変わっていて当然といえば当然だ。
落とし格子の門をくぐるとこれまで見て来た国とはまったく違っていた。
建物の数は少なく代わりに広大な田畑がある。
だが緑がたくさんというわけではなかった。
茶色の土が半分かそれ以上を占めており農作業をしている人の姿も少ない。
城も他の国と比べれば見劣りするものだろうが、近くに比べられるような建物がないために大きく見える。
ここから見る限りでは人の数が少ないようだ。
活気がないというか話し声なども聞こえない。
「こんなんだったか?」
「子供だったし周りなんて気にしてなかったから……にしても暗い?」
「だよな~」
昔はよかったな~、というおじさんではないがそれにしても今の方が閑散としているように感じる。
「せっかく帰ってきたってのにこれじゃあなぁ」
「ちょっと話でも聞いてみる?」
「頼んだ」
「人任せ!?」
それはアリアスの仕事だろ、と言って背中を押す。
丁度目の前を老人が横切っている。
アリアスが聞きに言っている間にクロエは現れた。
「こんなとこで服なんか売ってるわけないわよね~」
クロエの目線が刺さる刺さる。
貫通なんてお手の物というほどだ。
「いや、国だからあるにはあるだろ」
「あたしのセンスに合う店って事よ!」
「怒鳴らないでくれよ。こっちだって腹減ったり故郷が死にかけだったりしてるんだから」
ついでにまだ空の旅の恐怖は取れてない。
「あんたの故郷って寂れてるわね」
「理由を聞きに行ってるから何かわかるだろ」
言っているとアリアスが帰ってきた。
あまり状況が良さそうでない事が顔を通して伝わってきた。
「どうだった?」
「どうも数年前からこうらしいわ。戦いや連邦が関係してるみたい」
「やっぱりか」
「あと私が聞いた通りもうすぐ始まるって」
始まるとは戦いがだろう。
「ルーツィエ側につくにはどうすればいいんだ?」
「兵を集めてるって。そこに行けば」
「ルーツィエ兵になれるってか」
「城の前にでも行ってみよっか」
そうだな、と言って歩き始めた。
直線距離ではそう遠くはないものの間に田畑があるためジグザグに進まなければならない。
結果予想よりも時間がかかってしまった。
「ふぅ。疲れた~」
「はぁ、ちくしょうこんな広かったか?」
膝に手をついて肩で呼吸するまである。
自分の体力のなさに軽くショックを受けながらもどうにか着いた。
両開きの門は開かれており、中に自由に入れる。
そこをくぐると中庭のような場所の全貌が姿を現す。
前には城へと入る扉、左右は城から通ずる建物がシンメトリーになるよう造られている。
そこにはすでに集まっている数人と鎧を着た兵士が一人いた。
話を聞くならまずあの鎧の男だろう。
「アリアスちょっと」
「今度はロイの番だからね!」
「……はい」
心を読まれているようだ。
仕方なしにその男の方へ向かう。
「ここで兵士の募集があるって聞いたんだけど」
「ん?ああ、そうだがお前が?」
「文句あるのかよ」
「いや、ないが……」
弱いと思われているらしい。
「あんたは他人から見ると貧弱に映るのよ」
(うるせぇ)
俺は遠距離だから貧弱でも関係ないんだよと一蹴り。
「まだ時間はあるからその辺りで潰してきてもいいぞ」
「そうか。腹減ったし丁度いいな」
アリアスの元へと寄って話していた事を伝える。
「そう。じゃあのんびり歩きながら御飯に行こっか」
「おう」
久しぶりの故郷だ。
いろんなものを見て回ろう。




