五十一話 次なる戦い
うっすらとして顔は見えない。
ただ大人一人と子供二人が遊んでいる。
声が微かに聞こえる。
「……とうさ…これ……しょ?」
「…ああ……そ…ろ…よく……たな」
「…えね………あた……たよ……」
三人とも楽しそうだ。
何かなつかしさのようなものを感じる。
どこかで見た光景?
どこかで見た場所?
どこかで見た人?
次第にフェードアウトしていく。
もう少しで思い出せそうなのに。
「……ロイっ!!」
「はいっ!!」
突然自分を呼ぶ大声にびっくりして飛び起きた。
「ったくいっつもこれね」
「私ももう慣れました」
「ロイ様……晩御飯です」
「お、おう。そうか」
どうやら眠ってしまっていたようだ。
クロエの話の途中だった気がする。
また機嫌が悪くなってない事えを祈るばかりだ。
「さっさと行くわよ」
「へぇ……姉御」
「何か言った?」
「いえ何も」
アリアスがレノーレとダブって見えた。
ダメな男が近くにいるとこうなるのかなぁ、なんて思いながら食堂を目指す。
食堂はいつものように喧噪を保っていた。
そこには見慣れない顔の中にいくつか見慣れた顔がある。
「ロ、ロイの兄貴!その節はお世話になりやした」
「ごろつきの俺らをこんないいとこにつれてってくださって感謝してます」
一つはレノーレの下っ端だ。
俺が寝ている間にクラインが仕事の命令や衣食住の確保をしてくれたのだろう。
隣では三人驚いた顔をしている。
「え、あんたいつの間に兄貴になったの?」
「これには私もちょっと驚きです」
「ロイ様……カッコよかった……」
「いろいろあってな」
「セシリアの件に続いて兄貴って。私たちが知らないとこで悪さしてんじゃないでしょうね?」
「なんでマイナス方向に考えちゃうの!?もっとポジティブにいこうよ!」
皆暗いから世の中が暗くなっていくんだよ?皆バカやれば明るくなるって!
「こいつなんかを兄貴って呼んで大丈夫?」
頭的な意味で聞いてるのかな?大丈夫?の前に頭とかつかないよね?
「へえ!そりゃもちろん。なんつって兄貴ですんで!」
それにしてもとてつもない敬愛ぶりだ。
ちょっと前までぶっ殺してやるみたいな事言ってたとは信じられない。
「では兄貴お先失礼しやす」
「あ、おう。またな」
「へい!」
二人組の元ごろつきは去っていった。
他の元ごろつきもああなっているのだろうか。
「ところでロイさん?セシリアに何をなさったんですか?」
あれぇ?今度はそっちの件ですか。
てかなぜセシリアに聞かず俺に聞く。
寝起きとかお構いなくどんどん話が変わる。
ロイにゆっくりとした目覚めはないようだ。
「ま、まあ食べながら話そう」
「それはそうですね」
各々カウンターで好きなものを頼んでトレイに乗せ運ぶ。
丁度四人席が空いているのでそこにした。
「ロイさん、すごい盛ってますね」
「今日結構動いたからな」
「そうですか。何を」
「だから座ってからだって」
話を早く進めたいのはわかるけど食べながらにしてほしい。
ロイが適当に座るとセシリアはsっちを見て言った。
「……ロイ様の隣がいい」
「そう?別にいいけど」
「ちょっと待って。そこまでの関係!?」
「どこまでだよ」
何むきになってるんだ?
隣に座るぐらいいいだろ。
「いつもアリアスさんでしたよね」
「そういやそうだったな」
それでいちいち迷わなかったな。
席に座るだけでこんな時間かかるか普通。
「……わかったわよ」
「おお、偉いぞアリアス」
「うるさいっ」
「……ありがとうございます……」
頬を膨らましたけどセシリアが礼を言うとそれを止め少し笑みがこぼれた。
「はい、どういたしまして」
アリアスは仕方なしにラーシャの横に座った。
「で、ロイさん。その件を」
「早いなぁ……」
まだ一口も食べてないのにある意味お腹いっぱいだよ。
「それなんだけどさぁ……」
と、今日起こった出来事を話していく。
最初は難しい顔をしていたアリアスとラーシャだったが、進むにつれそれは崩れていった。
「なるほど。ちゃんと理由があったんですね。申し訳ありません」
「わかってくれたらいいけど。なんでこうなんたんだろ?」
「憶測ですけどセシリアは今まで男の方とあまりお話しした経験がないのでもしかしたらそれが原因の一つかもしれません。父とぐらいしか接しているところを見てませんし」
「父って皇帝だろ?あれと話せるなら誰でも大丈夫だと思う……」
肯定とはいえ父だからかと心の中で納得。
「ロイさんも頑張ってたんですね。妹を守って頂きありがとうございます」
「ボロボロだったし助けてもらったたしな。俺一人だったら死んでたな」
わしわしとセシリアの頭を撫でる。
それに嫌どころか心地よさそうな顔をしている。
「最初は全然話さなかったのにこの変わりようね。ロイが吹き込んだとしか思えないわ」
「俺がそこまで口達者だったらもっと楽に生きてこられたよ」
「でもそこがロイさんのいいところなんじゃないですか?」
「ラーシャ……!ホントいい奴だよ……!」
明日からも頑張ろうと思いました。
「で、俺がボコボコにされてる間二人は何してたんだ?」
「私はクラインさんに帝国の内情をお話ししていました」
自分の国の秘密を喋る皇帝の長女さん強すぎ。
「私は言ったとおり魔法について話してたわ」
「さすがは主席!素敵!」
「あんたを卒業にもっていくぐらいの力はあるわよ」
「俺そんなバカか!?」
繰り返す、俺そんなバカか!?
「その時に聞いたのよ。あの戦いがあるって」
あの戦いとはロザリンドとルーツィエがやろうとしている事だろう。
「アリアスはどうするんだ?」
「どうって、どうにもできないんじゃない?」
「そ、そうだな」
アリアスにしては随分とあっさりしている気がする。
もっと言ってくるかと思ってたのに。
「あの戦いとはなんでしょう?」
「ラーシャはまだ知らなかったな。実は戦いがあるんだよ」
自分なりに簡潔にまとめて話した。
「えっ!?本当ですか!?」
「いやいや、ロイの説明がヘタだから。まあ、戦いがあるけどロザリンドとルーツィエだから」
「ああそうなんですね。またあるのかと思いました」
「ごめん、ロイが説明ヘタだから」
二回言う意味あったかな?ないよね。
こうしてわいわいしているといつの間にか全員食べ終わっていた。
「いやぁ、食った食った」
「あんなに大盛りだったのに綺麗に食べ終わりましたね」
「腹がはち切れそうだ」
大盛りとか食べてる時はいいけど終わった時が悲惨だよな。
ぽっこりと出たお腹をさする。
「さあ、そろそ行く?」
「そうですね」
皆一斉に立ち上がる。
他にするこ事も特にないので部屋に向かう。
洞穴のトンネルみたいな道を行く。
「私たちはここですね。ではお休みなさい」
「……なさい」
ラーシャとアリアスが立ち止まって言った。
「おう。、お休み」
「また明日ね~」
ロイとアリアスが返した。
二人が部屋に入るのを見届けた後、そのまま振り返って二人は自分の部屋を目指す。
ふいにアリアスが口を開いた。
「ねえ、さっきはああ言ったけどやっぱりほっとけないよね」
「だな。だからってどうにもできないけど」
「できるでしょ?」
アリアスは立ち止まった。
部屋はまだ先だ。
「何かいい案でもあるのか?」
「ないけど、行けばわかるんじゃない?」
「ルーツィエに行くってか」
「そう」
簡単に言うなぁ。
ただロイ自身もじっとしているのは性に合わない。
アリアスは微笑んでいる。
ロイが次に言う言葉をもうわかっているみたいだ。
「しょうがないな。行くか」
「うん!」
さてまた明日から大忙しになりそうだ。




