五十話 バカでもわかる連邦事情
アリアスの部屋で話した後、ロイは自分の部屋へと戻った。
晩飯までの間しばし休息を入れようと思ったからだ。
部屋に入るや否やベッドに倒れ込んだ。
目には乾いた血がつき破れた個所が入ってきた。
「あ~あ、服買わねぇとな」
「あたしが選んであげよっか?」
「いや、いいわ。だってクロエの姉ちゃん……」
「ほほう。よくあの話題を持ってこれたわね……!」
しまった。
つい禁止ワードが出た。
ご機嫌すこぶるナナメのクロエをまた垂直に戻さなければ。
「……だからいいセンスをお持ちなんでしょうってね、ははは……」
「あの人と一緒にされるのはごめんだけどなかなかいい目してるわね」
何とか助かったようだ。
しかしクロエは『あの人』と言って、姉と呼ぶのすら嫌がっている。
どれくらいの溝があるのだろう。
家族は仲良くすべきだとロイは思う。
ロイは男手一つで育てられた。
母の事を知りたくて何度か尋ねてはみたが、父はその都度厭うような態度を取っていたのでそれ以上聞くのはいけないと子供ながらに悟った。
結局どのような人物か聞く前に父は死んでしまった。
ロイも家族がいたのは随分と前だった。
だからより一層家族の間で溝を作る事に違和感があった。
一瞬口にしかけたが、今それをクロエに言うべきではないと思い止まった。
「何か言いたげね?言ってみなさい」
「いや、じゃあ明日会に行こうかん、と」
「へぇ、相変わらず行動力だけはあるのね、バカのくせに」
「バカは関係ないだろっ!?あれか!?バカにしたいだけか!?」
これでも一応帝国の魔術学校出てんだぞ!
一応ってつけちゃう辺りバカって理解してそう。
いやバカは理解できないからバカなのに俺はバカだけど理解できるっそれ……。
脳みそがオーバーヒートを起こしかけたがクロエが話しかけてくれたので助かった。
「で、ど~すんの?」
「えっ、なんどや急に」
「ほら内線直前でしょ?」
「ああ、ロザリンドとルーツィエか」
つい先ほど聞いた話だ。
この間味方をしたロザリンドと自分やアリアスが故郷のルーツィエ。
二つの町が争うとしている。
一体連邦同士で何が起こっているのか。
「あたしが思うに理由は双方の思惑なんてあっさりしてるわね」
「わかるのか?」
「何年この世にいると思ってるの?伊達に知識量誇ってないわよ」
「神様みてぇだ」
神様にしては少し幼すぎるか、特に身長、胸。
口に出すと火山が噴火するので抑えた。
「ニタニタしてるのが気持ち悪いけど言ってほしい?」
「教えて先生」
「まずロザリンドだけど、これは力関係をわからせるってのが主な目的ね」
「ほう、わからん」
キリッとバカ発言したロイを華麗にする―して説明を続けた。
「連邦にも暗黙の順位みたいなのが存在するのよ。これは上に行くほど待遇がよくなるって感じの。ロザリンドは今度重なる戦いで兵力を消耗しているはずよ」
「でもロザリンドから兵力取ったら何も残んないぞ」
「そう。ロザリンドは今まで戦いによって順位を上げていた。でも兵力がなくなれば順位は下がるわ」
「それまで戦ってたのにあんまりだな」
非情というか酷い話だ。
使いものにならなければ対応が悪くなるらしい。
「次にルーツィエね。多分だけどここは兵力はない。そのかわり広大な敷地を利用して作られた小麦、野菜や近くにある海で取れる魚介類がある。これが強みね」
「むむ、どういう意味?」
「はあ」
クロエはわざとらしく大きなため息をついた。
「つまりそれらを連邦に売れば楽に順位を上げられるのよ」
「へぇ!その作戦があったか!」
「戦う理由は兵力が削られたロザリンドなら倒せると踏んだんでしょうね」
「ルーツィエがな……」
ルーツィエがどんな国かは正直なところそこまで知らない。
ただ自分の故郷がそんな事を考えると聞くと少し複雑な気分になる。
「でもそれはあくまでクロエの考えだろ?」
「長い事この世にいると人間の考えなんて手に取るようにわかるわ」
「それでもっ……!」
信じたくない現実がある。
目を背けたい話がある。
「ルーツィエに肩入れしてるの?それならやめるのをお勧めするわ。一般常識でいう正義の国なんて存在しないわ」
「俺はそこまで冷静にはいられないぜ……」
「心配いらないわ。もし冷静じゃなかったらあたしがとめてあげるわ」
「ありがとよ。クロエ……」
そう言って意識が途絶えていった。




