四十八話 ロイの頼み
残りのごろつきはあたふたしている。
それをよそ目にセシリアはロイに近づいた。
「聖なる治療」
瞬く間に横腹に傷が塞がっていく。
「ああ、ありがとうな」
「……うん」
魔法をかけた後にセシリアはロイに抱きついた。
「おおっ!?」
頭一つぐらい背が小さく、本物の妹のようだった。
これはこれでいいが……いろいろまずい気がする。
とりあえず頭をぽんぽんと撫でてみた。
セシリアはとても心地よさそうだ。
傷が塞がったのはよかったがこのごろつきどもをどうするか。
「おい、そこのまだ起きてる奴」
「へっ、へぇ!」
おどおどとした感じでこっちを見ている。
「そいつらを俺が言うところまで運んでくれるか?」
「へ、へぇ?わかりやした」
意外と素直に指示に従った。
やはり頭領を目の前でねじ伏せたのが大きかったようだ。
指示した場所は隠れ家だ。
「勝手にしちゃうと怒られっかなぁ?」
それ以外に考えが浮かばなかったからしょうがないとわり切る。
「よし、じゃあ行くか」
起きているごろつきは二人。
対して寝ている人数は四人。
ここは体格のいい二人に任せよう。
歩き始めようとすると呻き声のような声が聞こえてきた。
「んん……」
地面に倒れながら顔だけ上げたのは女頭領だった。
「もう起きたのか。完全に当たったと思ったのに」
「あんたが脇腹を出血してる状態でまともに魔力込められなかっただけじゃない」
クロエからのご指摘だった。
なるほど、自分はまだまだだと再確認。
「結局アタシはお前に負けたわけか……」
「そっちも十分強かったぞ」
「気遣ってくれるなんてね。お前いつか大物になるよ」
「ありがとよ。でもそのため力を貸してくれよな」
女頭領はほけっ、とした顔をしている。
「何言ってんだい」
「そっちは闇属性を使えるんだろ?」
「まあ、一通りはな」
「俺も使えるようになりたいんだ。教えてもらうにはその属性に特化してる人の方がいいだろ?」
最初は少し驚いた表情をしていたが理由を言うと理解を示した。
「普通町で悪さやってるとこの頭領に習うかね?まあ、。面白そうだからやってやるけど、下っ端はどうすんだい?」
「うちのお偉いさんがいいようにしてくれるさ。よろしくな、ええ、と」
「レノーレ・リーデル。そっちは?」
「俺はロイ・ヴィンフリートだ」
これでごろつきの件は片付いた。
帰り道は行きより何倍も騒がしいものとなった。
隠れ家へと通ずる場所であり、カモフラージュの場所でもある酒場へと着いた。
「へぇ、まずは仲間になった暁に一杯ってか?ガキのくせにませてるねぇ」
「ちげぇって。まあ、入れよ」
相変わらずの廃れた店。
中は薄暗い。
「こんな酒場誰も来ないだろうに」
「それでいいんだよ」
「はぁ?」
やたら理由を聞いてくるレノ-レを流しているとマスターが言った。
「今はまだ準備中だ。じきに雨が降る」
まだこれ言ってるのかと思う。
何回も出入りしてるのに未だに聞いてくるとは。
「それなら鉱山に行って石取らなきゃな」
「入んな」
いちいちこのやり取りは正直めんどくさい。
セキュリティのためとはいえ顔ぐらい知ってるだろ。
マスターは顔色一つ変えず店の奥を顎で指す。
「ちょっと待ちな。奥に何があるんだい?」
「あ、言ってなかったっけ?反乱軍の隠れ家」
「はぁ!?」
レノーレの下っ端共々驚愕の声を上げる。
「一体どうなってんだ!?」
「ああ、おれ一応ここのメンバーだから」
「どうりでそんな武器持ってるわけだ……」
納得したという感じだ。
ロイを先頭に下へ向かう階段を行く。
降り切るってまずクラインの元を目指す。
レノーレ一味はきょろきょろと落ち着きなく辺りを見回す。
最初は自分もこんなんだったんだろうな、としみじみと思う。
そしてかつて説教をくらった部屋の扉を開ける。
中にはもちろんクラインが座っていた。
「どうした、ってその服!?それにそいつらは誰だ?」
「ああ、言ってたごろつきだ」
「はぁ!?お前それ本当か!?」
なんでこいつらは、はぁ!?って大きい声出すんだ?習性か何かか?
「よ、よくやった……のか?まあいい。処罰はこちらで」
「こいつがお前が言ってたお偉いさんかい?」
「そうそう。クラインだ」
「へぇ、いかにもって感じだ」
するとレノーレは驚きで立ち上がったクラインの目の前まで歩いていった。
「へぇ、クラインっていうのかい。よろしくな」
「こっちはごろつきとよろしくするつもりはねぇぞ」
一瞬で殺気を感じ取れた。
一触即発とはまさにこの事だろう。
「ま、まあまあ二人とも」
「部外者は引っ込んどきな」
「そっちは話聞く気なさそうだし喋りかけてないよ。クラインに話がある」
「なんだ、手短にな」
まだ聞く耳を持っててくれて助かった。
「ごろつきだけどまあ、いろいろあって仲間的なものになったんだ」
「うちは悪党の力なんざ借りなくてもやっていけるさ」
「俺がやっていけないんだよ」
「どういうこった?」
つまりだな、と前置きしてふと思った。
手短じゃないな、と。
でも聞いてくれるみたいだしそこはスルーしてよう。
「クラインの目の前にいるのは頭領で闇属性の魔法が使えるんだ」
「だからどうした」
「俺が教えてもらえるって事だ」
「俺が教えてやってもいいぞ?」
クラインには死んでも教えてもらいたくない。
理由は主に精神論とか唱えてきそうだから。
「まあ、それもいいけど実際に使える人の方がいいだろって話」
「そうか。じゃあ仲間として認めん事もないが……」
「えっ?マジで?」
「今のこれとそれは別問題だ!」
この流れは……
「そうだ、ロイ。引っ込んでな。こいつとは戦わなきゃいけねぇって見た瞬間に思ったんだ」
「いい事言うな、頭領。あっちにお誂え向きの部屋があるぜ」
「じゃあそこでおっぱじめるとするか」
二人はにらみ合いながらに、しかし敵である雰囲気はそこにはない。
これ戦って仲良くなるタイプのやつだ。
セシリアはロイの袖を引っ張った。
「どうした?」
「……仲間の判定って雑?」
……確かに。
自分らもあんなふうだったしなぁ。
ここはもしかして誰でも入れる職場なのか!?




