四話 空の移動手段
ディオーレとは世界でただ一つの空中に浮く島である。
属している国はなく正確には村や都市に分類される。
世界の中心に位置していて他国からの干渉を受けやすい立地ではあるが、空中にあるため軍隊を派遣できる大掛かりな移動方法が確立されていないので攻められた事は一度もない。
「はい。浮遊石という希少な石の力が働いているので宙に浮いているそうです」
聞きなれない石だ。
そこでふとロイは、自分の持っている石がそれの可能性がありそうだと思った。
「その石は透明で中が虹色に輝いたりしないか?」
「いえ。そのような事は聞いた事がありません。ごめんなさい」
そう簡単には見つからないようだ。
確かにあの石は浮遊石と同じかそれ以上の力があるだろう。
「いや、わかった。ありがとう」
「しかしなぜ石のことを?」
あの石の事はごまかしておこう。
「……実は石がすきなんだよね~……」
ごまかし方下手だな俺。
「……そうなのロイ?」
お願いだからそんな白い目で見ないでくださいアリアス様……。
「そうなんですか。確かによく見ると趣がありますよね」
優しさで言っているのか、本気で言っているのかわからないが心が痛い。
「とにかく、なんでラーシャはディオーレに行くんだ?」
「……それは、為すべき事があるからです」
力強く言ったがはぐらかされてしまったようだ。
どうやら人には言えない事情がある事を悟った。
「あのお願いがあるんですが……一緒に来ていただけないでしょうか?」
おごってもらった後なので無碍に断る事はできない。
策略であるならなかなかの策士だ。
「まあ、俺ら他に行くとこもないしな」
「命の恩人を見捨てるわけにもいかないしね」
「ありがとうございます」
思わぬ形で行き先が決まった。
「それでどうやって行くんだ?」
「考えてあります。少しここで待っていてください」
待つこと数十分、ラーシャが戻ってきた。
「お待たせいたしました。では行きましょう」
ラーシャについて狭い路地を入って進んでいく。
なぜこんなところに用があるのか疑問に思った。
着いたのは一軒の家の裏口だった。
「さあ、入りましょう」
「お、おう」
迷いもなく入っていくラーシャだが本当にここで合っているんだろうか。
中には一人のがたいのいい男が自分たちを待っているかのように立っていた。
「よし、行くか」
その男は何の話もなしに突然言った。
「行くってどこに行くんだ?」
「あんたらディオーレにに行きたいんだろ。だったら黙ってついてこい」
体格の良さも相まってより威圧感が増している。
今度は厳つい男についていかなければならないのか。
向かった先は町を出て少し歩いたところにある森の中だった。
「ここに何があるってんだ」
そろそろちゃんとした説明がほしいものだ。
「そいつは見た方が早いだろう」
森の奥へと入っていく。
ある程度進むと森にぽっかりと穴が開いたように開けた場所に出る。
「な、なんだこれ!?」
そこには体長十メートルはあるであろう翼龍だった。
身体は大きいが空を飛ぶために空気抵抗を減らした形で、背に四枚の翼を持っている。
皮膚は緑色の硬い鱗で覆われていて半端な攻撃は全く通用しないだろう。
四本足だが発達しているとは言いにくい。
今は身体を丸めて眠っているようだ。
首元を見ると首輪がついていて鎖で繋がれているが、本気を出せば体格からして引きちぎれそうだ。
「空にあるディオーレに行くってのにこれの他にどうやって行くんだよ」
「嘘だろ……」
「マジだ。今から起こしてくるから待ってろ」
自ずと心に不安が広がる。




