四十三話 何を話せば……
どんどんと扉を叩く音。
その後に聞こえてくる声。
「おい!まだ寝てんのか!?」
完全に予想していた人と違う。
いつもどおりに起こしてくれる人はどこへ行ったのだろうか。
「飯できてるぞ!起きねぇなら力づくで……」
「起きてる!すっごい元気に起きてる!」
「なら出て来い」
気分が悪そうな声ではないがボリュームが多きすぎる。
遠吠えか。
のそりと立ち上がり銃を肩にかけ扉を開ける。
案の定目の前におっさんが立っていた。
他に人の姿は見えない。
「あれ、皆は?」
「なに寝ぼけた声で言ってる。しゃっきりしろ」
「で、皆は!?」
「それでいい。食堂だ」
朝から疲れるやりとりだ。
そのうち精神論とか説いてきそうで怖い。
「じゃあ行きながら話す」
「へぇ、どんな話だ?」
「なあに簡単だ。町に住みつき始めたごろつきみたいな奴らをボッコボコにすればいいだけの話だ」
「どこが簡単なんだよ!」
おかげで目がすっきり覚めた。
「戦場を潜り抜けてきたおまえなら簡単だろ」
「おだててもその手には乗らない」
「さすがのロイもビビッちまったか」
「やってやるよ!俺がビビるわけねぇだろ!……あ」
にっ、と笑うクラインを見て敗北を確信した。
「よろしく頼むぜ」
口車に乗せられて了承してしまった。
言ったのなら仕方ない。
「楽しい一日になりそうだ」
「やっと乗り気になってくれたか!」
「皮肉ってわかれよ!」
小突きてぇ……。
隣なのに殴れないこの気持ちをどこかに発散できないだろうか。
なんて考えていたらもう食堂だ。
そこでは珍しい、というより唯一女の子三人が固まって座っている。
むさ苦しいおっさんしかいないためより際立って見える。
「ほら、言って来い。あ、ラーシャくを呼んでくれるか」
「いいけど、なんでだ?」
「話があるから」
「ごまかしたな」
問い詰めてもこの男は吐かないだろう。
まロイは吐かせられるほど饒舌ではない。
そのグループの所へ行ってラーシャにその事を伝えた。
「はい、わかりました。ではお先に失礼しますね」
「何話すんだ?」
「ふふっ、いろいろです」
「俺はごまかしやすいと思われてるのか」
はぐらかされるとますます知りたくなるというもの。
「ちょっとだけでいいから」
「帰ってきたら教えますね」
「楽しみにしとくよ」
ただその頃には忘れてる可能性もあるからなぁ。
ラーシャがクラインの元へ行って残されたのはロイ、アリアス、セシリアの三人だった。
セシリアはぽつんと座っている。
距離は近いのになぜかとても遠くに感じる。
「……」
「……」
「……」
接点がねぇ!
アリアスに任せようと思ったらこっちに助けを求めるような目で見てくる。
やべぇ、何か話さないと。
「きゅお、は……」
噛んだ……!
焦りすぎて呂律が回らない。
「んんっ、今日は良い天気ですね」
「ええ、そうね……」
なぜアリアスが反応した。
慣れない環境だ。
ある意味ファニクスとの戦い緊張している。
ファニクスとの戦いで金塗油したかは置いておいて。
「ロイ、とりあえず食べ物取ってきたら?」
「そうだな……」
この取りに行っている間に考えよう。
しかし何も浮かばないまま戻ってきてしまった。
こ
「あんたラーシャとの初対面大丈夫だったんだからいけるでしょ?」
「そっちはどうなんだよ」
「……珍しく何も言い返せないわ……」
よく言えないが話しづらい気がする。
「あ、そうそう。私やる事があったから~」
そんなものないはずだ。
きっと逃げようとしているに違いない。
すぐさまトレイを置きアリアスの腕を掴む。
セシリアには聞こえないように小声で話す。
「おいおい、逃がしやしないぜ」
「離して、本当にやる事あるから」
「何だ、言ってみろ」
「防衛学専攻の人の話を聞きたいって人たちがいたから」
嘘ではなさそうだが。
「だったら俺でもいいよな?」
「あんたみたいな三流魔法しか使えなくて実技も筆記もだめな奴が言って何話すの!」
「掴んでしまってすみませんでした」
残像すら見えないくらいすぐに離した。
ボロクソに言われたが一字一句合ってるのが余計に痛い。
「じゃあね」
唯一の希望が断たれた。
この状況をどうしたらいいのか。
でもとりあえず飯を食おう。




