四十二話 久しぶりのディオーレ
その頃、ロイたちはロザリンド国からディオーレへと戻っていた。
翼龍から降りるとそこにセシリアの姿があった。
「お姉様……」
「よしよし、いい子にしてた?」
「はい……」
ここに残されたのが不安だったのか、ラーシャに一目散に抱きついた。
頭を撫でられてセシリアは安堵の表情を浮かべている。
「お空怖かったねぇー」
「お、俺もう無理……」
一方のロイはアリアスによしよしされていた。
がくがく震えるロイを優しく包み込む。
「お前ら、いろいろあったし疲れただろ?しばらく暇になるから身体休めておけよ」
ロザリンドでも十分に休める暇はあったが特に命令が下されなければ自由にさせてもらおう。
とりあえず。
「な、何か食い物……」
安堵すると腹が減るものだ。
長い間空けてた気がするが日にちはそれほど進んでいない。
帰ってからは飯を食って昼寝をして過ごした。
その所為で今夜中というのに眠れていない。
ただベッドに横たわって時間が過ぎていくだけだ。
「暇だなぁ……」
その声に応じて姿を現したのはクロエだった。
自分の真上に浮いている。
「目瞑ってれば勝手に眠ってるわよ」
「それは無理。眠くないと瞼は下がらないから」
「うるさい。エセ不眠症」
早速罵りが飛んできた辺りでふと思い出した。
「そういえばさ、ファニクス?って奴が持ってた銃の弾の速度が俺より早く感じたんだけど」
「実際早いわよ」
「マジか。何でだ?」
「あんたの使い方は魔力が分散しおるから遅いの。あいつは魔力を一点に集中させてるから早いの」
なるほどな、と頷く。
「それだったら俺も早くできるのか?」
「もちろん。それに姉ぇ……銃のアレクサンドラよりあたしの方が威力とか速度もあるはずなのよ」
「で、それがないのは……」
「主がゴミだからね」
はっきり言うなぁ、と思う。
でもまだ使い始めて一か月も経っていない。
これから練習すればいいだけだ。
「なんでそんなに仲悪いんだ?」
「ああ?」
姉の話になると態度がえげつなく悪くなりますね。
「別に大した理由なんてないわよ」
「なくてそこまで嫌ってるならそれもう病気じゃないか?」
ギロッ、と目が合った。
背筋が凍るぐらいの目つきだ。
「ま、まあ、クロエの方が性能はいいんだろ?」
「そうよ。後継機はだいたい能力が向上するものだから」
機嫌が直ったみたいだ。
「アレクサンドラは試作品みたいなものね。あたしは実践を想定して作られたからスペックが違うわ」
「作られたって言ってるけど誰が作ったんだ?」
それまで普通に話していたのに急に口を閉ざした。
言いたくないのか、言えない事情があるのか。
「……そうか。そっちにも何かあるよな」
「いろいろあるのよ」
「いつか知れる日が来る事を祈ってるよ」
パートナーであり相棒だ。
誰よりもいる時間が長いだろう。
だからこそ知れる範囲は全て知りたかった。
だがパートナーであり相棒だ。
誰にも知られたくない事もあるだろう。
だからいずれ話してくれると信じていよう。
「そろそろ寝ようか」
「あんたは朝起きれなくなっちゃうからね」
「認めざるを得ないな」
「だったら黙って目を閉じなさい」
わかったよ、と言って枕の横に置いてある机の上の蝋燭を吹き消す。
「お休み」
そう言って数分後には深い眠りについていた。




