四十一話 今度こそ
ファニクスは目を丸くしていた。
目撃情報がたくさん上がった人物がいる。
第一王女、ラーシャ・ヴァルフガング・ベルナールだ。
「あ、ありえん……」
「ですがこれほど多いとどうやら嘘と断定するのは難しいかと」
ではどこにいたというのか。
まさか自分の前にいた?
戦場での記憶は曖昧になってしまう。
ぼんやりと覚えているだけで細部ははっきりしない。
それが自分の欠点であるのはわかっている。
「となればやるべき事は救出か」
「でももし戦場にいたとして、敵対行動に出ていた可能性があれば反逆として捕らえる形になるでしょう。そうなれば救う手立てはないように思います」
冷静な意見だ。
どうするべきか。
「その報告は私以外にしたか?」
「いえ、誰にもしていません」
「よし、では今後その情報はここだけの秘密だ。絶対に漏らすな」
「わかりました。では戦場にいたと証言した猪人はどのように?」
大臣や議会連中が劣等民族とみなしている猪人まで聞きまわる事はないだろう。
「放っておけ。私はこれより帝国外調査という名目で王女を救出に向かう」
「いつ出立ですか?」
「申請もある。だが急がねば。では三日後にしよう」
「ファニクスさんが出ている間は力不足ですが私が代わりを務めさせていただきます」
よろしく頼むと伝え、足早に部屋を出る。
長い時間空けるかもしれないと自分の部屋へ向かう。
「へぇ、面白くなってきたんじゃない?」
「傍観者は黙っててくれないか」
「そりゃ無理よね~」
「なぜだ」
アレクサンドラは楽し気に言う。
「だってまがい物なりにも幼馴染を助けに行くなんてどっかの物語みたいじゃない?」
「……昔の話は忘れた」
いつだったかそんな日もあった。
今では関係ない事だ。
「嘘がヘタよねぇ~。だっていたって聞いた時目に色変えたのバレバレだから~」
「からかうのは終わりだ。勝手に魔力を使って出てくるな」
「あら~、怒っちゃって」
ここは軽くあしらっておくのが一番だ。
下手に無視すると波状攻撃がくる。
「それについてはまた後で話そう」
「こういう系の話ってその場でやるから楽しいんでしょ~。わかってないわねぇ~」
訂正、どうしても波状攻撃がくる。
おかげで退屈せずに部屋まで来る事ができた。
鍵を開ける。
「用心深いのね」
「万が一があるからな」
寝首を掻っ切るような輩がいないとも限らない。
例え帝国内であったとしても。
「さしぶりって感じ?」
「そうだな。あんまり部屋には戻らないから」
かといっていつもどこで寝てるんだとなるが割と点々としている。
資料室で寝たりさっきの部屋のソファーで寝たりするのがほとんどだ。
ここまで来るのが億劫になっている。
今日もそこまで長居はしないつもりだ。
「取る物取ったらすぐに出る」
「せっかちねぇ~。生き急いでもいい事ないわよぉ~」
「急がないともっといい事なくなるから」
「嫌な人生ねぇ」
雑談しつつ荷物をまとめる。
部屋は綺麗に整頓され何を取り出すにもすぐにできる。
「マメねぇ~」
「君とは違うよ」
もしアレクサンドラに部屋を貸したら三日も立たずぐちゃぐちゃになるだろう。
少し多めの金を袋に詰め込み、部屋を出る。
「えっ!?もう終わり?」
「他に必要なものなんてない」
「いや、そうだけど」
レイピアも置いてきた。
武器は銃だけだ。
これだけで十分だ。
「へぇ、随分頼ってくれてるみたいねぇ~。それでもクロエちゃんの主に引き分け、ファニクスからしたら負けぐらい?してるのよぉ~」
「まだ決着は着いてない。あの時は邪魔が入った」
早口で否定する。
「だからあんたわかりやすすぎぃ~」
あの男はいずれ必ず倒す。
それと同時に誓う。
ラーシャ様、すぐ助けに行きます。
二度と傷つけさせない、と言った。
二度と泣かせないと、心に決めた。
それを果たす時が来たという事だ。




