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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第一章
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三十八話 流儀

 凹凸は刃を噛みちぎるためのもの。


「これが俺の戦い方だ」


 ロイは高らかに宣言した。

 ファニクス参考にしてクラインと共に立てた戦法だ。

 銃の致命的弱点である接近戦の穴を埋める且つロイがまだまともに扱える武器が条件となった。

 レイピア、エストック、バスタードソードなどたくさんあったがロイがそれを持ってまともに戦えるとなると数が一気に限られてくる。

 ナイフのソードブレイカーならば腕力もそれほどいらず、どこにでもしまえるという利点がある。

 他にもあったがこれを選んだ理由は敵が持っている剣を折ったりさっきのように無力化できるからだ。

 クライン曰くその辺のナイフとはわけが違う、との事。


「さぁて、次は誰だ」

「クソガキがッ!」


 今度は二人相手だ。

 単調な攻撃がロイを襲う。

 男のカットラスでの攻撃を躱して、次のもう一人の男のサーベルをソードブレイカーで受け止める。

 さすがは盗賊というべきか。

 腕力で押し切られてしまいそうだ。

 このソードブレイカーの欠点は凹凸で受け止めている時に刃がこちらを向いている事だ。

 だからもう一方の手で支えられない。


「くははは、これで終わりだ!」

「確かに。でも終わるのはお前だけどな」


 ソードブレイカーを持っていない右手で背にある銃を取った。


「出番だクロエ!」

「そのソードなんちゃらで片付ければあたしなんていらないでしょ」

「お願いしますって。そこを何とか」

「はぁ」


 渋々了承を得られたようだ。


「殺す事はない。ちょっと眠らせてやってくれ」

「情けね」

「違う。強者の余裕ってやつだ」


 至近距離で男の懐に一発を入れる。


「うごッ!?」


 ロイをよりも大きい体格を持つ男が何メートルも吹っ飛んだ。


「ほ、ホントに殺してないよな?」

「さぁ?」


 気分次第で人を殺しかけるとは恐ろしい。

 しかしなんで機嫌が悪いのだろうか。

 考えるよりまず盗賊を片付けなければ。


「な、なんだそれっ!?」

「銃、って言ってもわかんないよな。俺もわかんないけど」


 もはや向かってこようとすらしない男に、銃を向け撃つ。

 命中するとすやすやと眠りについた。


「お、おい。そいつらに何をした!?」

「まだ残ってたか」


 一番最初に剣を飛ばした男だ。


「どうする。仲間全員寝てるけど」

「く、くそ。親父!親父ぃ!」


 男は急に大声で呼び始めた。

 その声に返事するように声が聞こえてくる。


「お前ら本当に使えないな。まあいい。そいつの武器にも興味がある」

「お、親父」


 その親父とやらが姿を現した。

 一緒に出てきた者には見覚えがある。


「あ、アンネッテ…!無事だったのか」


 いち早く反応したのはパウロだった。

 

「ははは、さっきまでの威勢はどうした、銃とやらを持ったガキが」


 唇を噛みしめる。

 今これを使えば被害が及ぶだろう。

 ソードブレイカーも至近ではないため使えない。

 魔法は炎しか使えない。

 ここで使えば森が火の海になってしまう。


「ロイ、どうするの」

「ああ、ちょっと困った事になったな」


 アリアスの方も片付いたのだろう。

 これで二対二だが、人質を取られては迂闊に攻撃できない。


「まあ、俺らは争いたいわけじゃない。交渉といこうじゃないか?」

「じゃあそっちは何が欲しいんだ」

「話がわかるのは助かる。金目のものだ」


 ニヤッと笑う。

 金目のものといってまず目につくのがパウロの着ている鎧だ。

 実際魔法の類がかかっていないとしても一般人にはわからない。

 色も赤だから余計に希少価値があると思い込みやすい。


「渡してくれたらこっちも渡そう。それで今回の件は終わりだ。な、簡単だろ?」


 ここでの正解はなんなんだろう。

 頭を使うのは性に合わない。

 パウロの鎧を渡すのも正解だろうし、不意をついて銃で攻撃するのも正解だろう。

 そもそも一番いい結果どういうものなのか。


「随分時間かけるじゃねぇか」

「黙ってろ」


 一番いいのは無傷でアンネッテを救い出してこっちは何も渡さない事だ。

 そこまでもっていく道は果たしてあるのか。

 考えている間にパウロが口を開いた。


「ま、待て。これが欲しいんだろ。だったらやるよ。だ、だからアンネッテを返してくれ」


 震えた声が恐怖と対峙しているのを表わしている。


「話がわかる勇者様だ。それに引き換えそこの坊主。あんまり決断が遅いと取り返しのつかない事になるぜ」


 パウロは鎧を脱ぎ捨てた。


「さ、さあ、これでいいだろ!?」

「ああ、どうも。おい、回収しろ」

「へい!」


 命令された男はこそこそと鎧を担いで森の奥へ消えていった。


「ありがとよ。でも決断が早いのもいいが急ぎすぎるとそれはまた悲劇を生むってもんだ」

「こっちは渡したんだからそっちも開放しろよ」


 親父と呼ばれていた男は盛大に笑った。


「俺の手からはまだ一寸も離れてないぜ?交渉?盗賊が約束なんかするわけねぇだろ」

「くそっ!」

 

 まんまとハメられたわけだ。


「そ、そんなじゃあ俺は…」

「おい、落ち込むのは帰ってからにしろ」


 パウロは落胆して地面に座りこんだ。


「さあ、どうやって俺を倒す?」

「くっそだりぃ」


 と、言って銃をしまった.


「あんた何してんの!?これで眠らせればすぐに済む話でしょ?」

(そうだけど、俺にはできない)

「なんでよ!」

(俺は仲間には武器は向けないって決めてるんだ)


 人質として囚われているアンネッテが仲間といえるかわからないがそれでも敵ではないし、少しの交流もある。

 だとしたらそれは仲間ではないだろうか。

 例え人々を騙していた偽勇者の一行だとしても。

 父の教えであった。

 今まで一度も破った事がない。

 それほど大事にしている。


「あんたの変な矜持に付き合わされる身にもなってみなさいよ」

(変な矜持を持ってるからこそ男なんだろ)

「微妙に納得しちゃいそうな理論やめなさいよ。でも確かにそれをもってない男はつまらないわね」

「……だろ?」


 クロエに共感してもらえたのは嬉しいがそれでも状況は変わらない。


「へっ、かかってこいよ」


 安い挑発を繰り返す。


「挑発に乗ってやるか。アリアス頼むぜ」

「え?ちょっと聞いてないけど!?」


 ロイはソードブレイカーを捨てて走り出した。


「とうとう気が狂いやがった。おもしれぇ」

「あ~もうなんでこうなるの!?突風ヴィントシュトゥース!」


 男に向かって強い風が吹く。


「うおっ!なんだこれ!」


 目も開けていられないほどの強風だ。


「いただき!」


 その間にロイはアンネッテを救出した。


「おのれ!」


 男が反撃に出ようとするも人質を失った男に容赦はいらない。


螺旋風ヴィントシュピラーレ!」

「うごッ!」


 回避できずにまともにくらった男は飛ばされ木に激突して気絶した。


「助かったぜアリアス。やっぱわかってくれたか」

「あんたバカでしょ!何にも伝えずに突っ走るなんて」


 お説教タイムに入るかと思ったが以外にも早く終わった。


「まあ、でも助かったし今回だけ目を瞑ってあげる」

「ありがとうございます。アリアス隊長」

「それまだ続いてたんだ……」


 これでようやく助け出せて任務完了だ。


「あ、あの、ありがとうございました!」

「ホントだぜ。まったく」

「すみません。ご迷惑かけて」


 アンネッテは涙を流している。


「気にしないで。首を突っ込んだのは私たちだしね」

「それにまだやる事あるだろ?」

「え、やる事?」

「鎧奪ってったあの野郎をぶちのめすんだよ」


 その後森中に悲鳴が響き渡ったとか。

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