三十七話 新しい武器
ロザリンド国を出て西に行った所に森がある。
そこは誰も近づかないような場所で、盗賊が隠れるにはもってこいだといえる。
森には強いモンスターなどは生息しておらず二、三人いれば十分倒せるほどだ。
道ではないが人が行き来している跡がある所を歩いていく。
この先に盗賊がいるとふんだからだ。
「はぁ、何してんだろうなぁ、俺」
「人助けでしょ。困った人を放っておけないんでしょ」
「そうだけど今回はアリアスがアピールしてきたからでもあるんだぞ。パウロ、アリアスに礼言っておけよ」
「ああ、もちろんだ。本当に感謝しかない」
面倒事に巻き込まれたもんだ。
ゆっくり過ごすはずが途中から変な方向になって。
と、思ったがマイナスに考えるのはよそう。
来たからには割り切って助けてすぐに帰ろう。
「しかし寒いなぁ」
「十二月だからね。あ、あと一か月ちょっとで今年も終わりか」
「また去年みたいにパーティーでもするか」
「そうだね。今年は去年より楽しくなりそうだね」
去年はアリアスとその両親と一緒に過ごした。
今頃どうしているだろうか。
森の奥を進んでいくと木々の間から声が聞こえてきた。
「おう、来たか」
短い言葉だったが、ドスがきいた声で威圧感があった。
周りからはカサカサと草が揺れる音がした。
それらは何者かが近づいてきた事を意味していた。
「悪いな勇者殿。お仲間もまとめて身ぐるみ全部剥うでもらうぜ」
姿を現したの話しかけてきている子分だろう。
パッと見ただけでも五人はいる。
完全に囲まれた形だ。
退路は塞がれ四方逃げ道がない。
「ど、どうするんだ」
「どうするって戦うしかないだろ」
「お、俺は……」
「あんたはそこにいるだけでいい」
パウロは驚いたような顔をしている。
「いいかよく聞け盗賊ども!お前らなんかに勇者の剣を抜かせるわけにはいかねぇ。俺が相手だ」
「ほう。おもしれぇ」
「調子に乗るなよ。俺がいたぶってくれるわ」
盗賊たちは口々にロイへ挑発や暴言を浴びせた。
「アリアス、援護を頼む」
「わかっ……ロイってその武器遠距離よね。二人とも援護になって前線いなくなるわよ?」
「俺が前に立つ。そのための策も考えてある。これだ」
ロイが懐から出したのは三十センチにも満たない短剣だった。
「ナイフなんかで前線はきついでしょ?」
「大丈夫だ。実はな」
鞘から取り出し刀身を見せる。
鋭い刃がついていて先は尖っている。
そこまでは普通のナイフと何ら変わらない。
違うのは峰が凹凸である事だ。
異様な形であり、他とは一線を画したナイフである。
「前のファニクスとの戦いで学んだんだ。銃だけじゃ近距離は不利になる。だから近距離用の武器を持てばいいって」
「でもロイって武器自体苦手だったよね?」
「……今頑張って苦手な事に挑戦しようとしてるんだから応援ぐらいしてよ」
「ごめんなさい。じゃあ前は任せるわね」
おう、と返事して臨戦態勢に入る。
「へっ、なめられたもんだ。ちっぽけなナイフなんかできやがった。さっさとそいつをぶっ殺して勇者も道連れにしてやるぞ」
盗賊の武器はサーベルにカットラスといった湾曲した物だ。
いかにも盗賊が使いそうな剣である。
「さあ、行くぜ!」
円を描くように囲まれた中でどう戦えばいいのか。
一番いい方法なんてロイは知らない。
ただ目の前の敵を倒すだけだ。
「こっち半分は任せて。そっちをお願い」
「おし、任された」
円の中心をパウロとヴェルナーにして一定の距離に入れないようにする。
それを調節するのはアリアスだった。
ロイの目の前には三人の盗賊がいる。
「へっ、クソガキに思い知らせてやるぜ」
「余計なお世話だ」
一人の盗賊がロイに向かって剣を振り下ろした。
それをナイフの峰の凹凸で受け止める。
「ちょっとはやるみてぇだな」
「本番はこっからだ」
ナイフを剣にがっちり噛ませてひねりを加える。
「うおっ」
盗賊は声を上げた。
その男が持っていた剣が宙を舞って遠くの地面に刺さったのだ。
「な、なんだそのナイフ!?」
盗賊は質問をぶつけた。
「これか。これはソードブレイカーだ」
ソードブレイカー、剣を喰らう剣である。




