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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第一章
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三十六話 噂の正体

 クラインの一室でまた今朝と同じように顔が死んでいるのはロイである。


「よくもまあ、昼からもあるぞって言ってたのに忘れて帰ってくるか、普通」

「俺は普通じゃくて特殊って事だ。で聞きたい事は他に?」

「ん、じゃあ、これは俺の興味だがなんで俺が着いた時にファニクスって男はずぶ濡れだったんだ?」

「ああ、それは……」


 ファニクスは濃い霧の中でどうやって正確に撃っているのかを考えていた。

 体温を感知して撃っているのではないかと思ったのだろう。

 一般人ならそんな考えには至らない。

 これはあくまで自分の予想だが、とロイは前置きして言った。

 おそらく何回か撃った時に策を講じるべく、様々な方法を試していた、と。

 それは正解で、まず何らかの水魔法で自分の表面の温度を下げた。

 次にクロエと同じ存在であるアレクサンドラという者に熱源を作り出す魔法をかけたのではないか、と説明した。


「へぇ、それはよくわかったが、お前そこまで戦闘中に冷静な分析ができるようになったんだな」

「お、おう」

「全部あたしの受け売りじゃない。感謝しなさいよ」

(ありがとうございました)


 クロエの声はクラインには届かない。

 クラインもクロエがいる事を忘れているかもしれない。

 見えない存在は意外とすぐに忘れたりするものだ。


「次はこっちの質問だ。この戦いでの死者や負傷者はどうなった?」

「それだが、全四万の兵だが、死者八千六百三十八名、負傷者二万五千七十二名ってとこだ」


 多いか少ないかは正直わからないが、とりあえずここは神妙な面持ちを保とう。


「お前が来たおかげで帝国の乱れがあった。十分活躍したと褒めてやりたいが、俺の命令を無視して勝手に出て行ったのは長として見過ごすわけにはいかねぇ」

「やっぱりか。で、罰はなんだ」

「はっは、話がは早ぇ。安心しろ。そんな嫌な事じゃねえ。明日一日門番だ」


貴重なロザリンドでの五日間の内の一日を無駄にしてしまうだなんて。


 と、いうわけで朝から門番をしている所存である。

 この仕事はえらく久方ぶりに感じる。

 あれから息つく暇もなかった。

 あてもなく飛び出たが何とかなったし、生きるのには問題なく、思った形の最高の方だ。


「お~い」


 そうそうこんなふうに呼ばれた日から始まったんだ。


「ぼーっ、として。そんなんじゃ門番は務まらないぞ」

「すみません、アリアス隊長。自分、気が抜けてました」

「感心しないな。次から気を付けるよーに」

「はい、気を付けます」


 クラインのまねをしてロイを叱る。

 ようやく落ち着いたと実感した瞬間だった。


「なんだか懐かしく感じるなぁ」

「そうだな。ただ兵舎に門番が必要なのかが疑問だけどな」


 中にいるのも兵士ってもう守る必要ないよね。


「罰だから文句言わないの」

「これを聞かれたらまた罰増やされるかもしれないしな」


 アリアスと話していると、目の前を赤の鎧を纏った男が周りをきょろきょろしながら通過していった。

 そばにはもう一人昨日紹介された男がいたが、魔法使いの女の子だけいなかった。


「あれ……そうだよな?」

「うん、多分そうだと思う」


 ここの門番をサボっても大丈夫だろう。


「お~い、パウロ。どこ行くんだ?」

「あ、ああ、昨日の君か。ちょっと急ぎの用でね。ごめん、もう行くよ」


 そう言って逃げるように去っって行った。


「凄い慌ててたね」

「伝説の勇者が慌てるなんてな。つけてみるか」

「やめなさいって。でも興味あるわね」

「だろ?行こうぜ」


 アリアスは難しい表情を浮かべているが、ロイが粘り強く交渉した結果渋々行く事となった。


「お、いたいた。ただ今より尾行を開始する」

「あんたノリノリね。ほら角曲がったわ。早くしないと撒かれるわ」

「そっちもノリノリに見えるけどな」


 パウロとヴェルナーは人のいない道をわざわざ選んで通るように進んでいく。

 話しかけられるのが煩わしいのか、それとも他に理由があるのか。


「随分小さい道に入っていくわね。って行き止まりじゃない?」

「しかもすげぇきょろきょろしてる。不審者みたいだ」

「私たちもね。しっ、何か話してるわ」


 ロイとアリアスは耳を澄まして聞く。


「ったく、なんでこうなるんだ……」

「いつかこうなるからもうやめようってあれほど言っただろ」

「はぁ、くそっ。どうすりゃいいんだよ……」


 パウロは頭を抱えて悩んでいるようだ。

 この世の終わりが来たとでも言いだしそうな表情を浮かべている。


「どうする?相談に乗ってやるか?」

「ロイはどっちがいいと思う?」


 少し考えて自分の答えを出した。


「やっぱり困ってる人がいたら助けるだろ」

「そういうと思った」

「それに勇者に恩を売っておけるのはでかい」

「それは言うとは思わなかった」


 株がちょっと上がってからすぐに急降下した。

 今はマイナスの域だ。


「パウロだよな。どうしたんだ。そんな困った顔して」

「き、君たちか。まさかついてきたのか!?」

「そうといえばそうだな」

「非常識だったわね。ごめんなさい。でも話を聞いてたら引けなくなっちゃって」


 さらに困った表情を浮かべるパウロは、ヴェルナーに救援の目線を送るが、反応を得られない。

 

「困ってるんだろ?力になれないかと思って」

「どうするヴェルナー。話すか?」

「もう好きにしろ」


 投げやりなヴェルナーを睨んでから、パウロは天を見上げて話し始めた。


「もう一人魔法使いがいたろ?」

「いたな。どこにいったか俺らも気になってたんだ」

「実はな、さらわれたんだ」

「本当か!?」


 ロイは驚きを隠せなかった。


「それなら助けに行かねぇと!場所はわかるのか?」

「ああ、アンネッテがいた部屋にこれが置いてあったよ」


 見せられたのは一枚の紙。

 そこにはこう書かれていた。


〈仲間をさらった。返して欲しくば町の外の森までこい〉


 誘拐なんてするのは盗賊や山賊の類だ。


「場所がわかってんならさっさと行こうぜ。勇者なら楽勝だろ!」

「そう、勇者ならとっくに解決してるだろうな」


 意味がわからなかった。

 勇者であるはずの者が勇者ではない者の目線で話しているからだ。


「パウロは勇者なんだろ?」

「いや、違うんだ。……騙してたんだ」


 騙していた?

 それはロイとアリアスだけではない。

 町中の人々だ。


「おい!なんで嘘なんてついたんだよ!」

「これ以上君たちに嘘を言っても無駄だな。わかった、全部話すよ……」


 観念したようにパウロは口を開いた。


「俺らは確かに勇者なんかじゃない。勇者の名を語った詐欺師ってとこだな」

「それで、なんで嘘ついた」

「始め軽い冗談だったよ。だがいつの間にか大きくなって今じゃ町全体がそれの話だ」


 パウロの笑いが掠れている。


「その鎧はどうしたんだ」

「これか。嘘がばれないように必死になって皆を騙してもらった金で作ったのさ。魔法の効果なんてのも嘘っぱちだ」

「ここまでよくそれで来れたな」

「自分でもびっくりだよ」


 怒りが込み上げてくる。

 ずっと人からもらった金でのうのうと生きてきたんだろう。

 ただ罰が当たっただけだ。


「ほんとにクズだな。アリアス行こう。胸くそ悪い」

「でも……魔法使いの女の子はどうするの?」

「こいつらの仲間だろ。ほっとけばいい。それに本物の魔法使いなら一人で戦えるだろ」

「魔法なんて使えるわけないだろ」


 ヴェルナーの言葉とへらへらした態度にもはや呆れてしまうほどだ。


「自業自得だ。もう俺は帰るぜ」

「ま、待ってくれ。君たちは兵士なんだろ!?だから兵舎の門番をしてた。お願いだ、助けに行ってくれ」

「俺らは兵士じゃないし、仮に兵士だったとしても勇者様を助けるほど強くないしな」

「ロイ……」


 アリアスも困った顔をしている。

 こいつらは許せないが、それでも魔法使いの事が気になるのだろう。

 小さい時からこれに弱い。

 今回も同じだ。


「あぁ~!、わかったよ、アリアス。行けばいいんだろ!?だからそんな顔すんなって」

「ありがとう、ロイ」

「行ってくれるのか?」

「お前らも来るんだよ!」


 自分のお人よし加減にも呆れたものだ。

 だがそれ以上にアリアスのあの顔だけは見たくはなかった。

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