三十五話 発見!伝説の勇者!
あれはどうみても勇者と呼ばれる分類に属するタイプの人だ。
鎧は特注としか考えられない赤色だ。
ただどうして路地裏なんかにいるのかと疑問に思う。
「あれ、話しかけていいかな?」
「てっきり城にいると思ってたけど案外町に出たりするのね……庶民的?」
「でも勇者でしたら話しかけても邪険には扱われないと思いますよ」
「そうだな。俺話しかけてくる」
ロイは三十メートルほどの距離をいつもより遅く時間をかけて歩いた。
その勇者と思わしき人物は顔を下げて何か困って暗くなっている様子だったが、こちらに気付くとがらっと雰囲気を変えて声をかけてきた。
「君、どうしたの?」
子供を相手するように話しかけられたのはムカつくが、そこはスルーしておいてやろう。
「いや、珍しい鎧だなと思って」
「そうだろう!わかるか。君とは話が合いそうだ」
高笑いをする勇者風の男。
「俺はパウロ・シュトラスだ。こっちの魔法使いがアンネッテ・ウルリッヒ。そっちの男がヴェルナー・シグモンティだ」
「おいっす」
「どうも」
雑な挨拶をした方が魔法使いで、気怠そうな方が僧侶か。
「おう。俺はロイ・ヴィンフリートだ。なあ、パウロ。もしかして伝説の勇者だったりするか?」
「ストレートに聞くのね……」
「いや、気にしないでくれ。もう慣れたから」
はははっ、と笑うパウロ。
それは自分がそうであると認めたに他ならない。
「その鎧着てたら皆そう思うだろ」
「確かにな」
「それって魔法とかかかってんの?」
「も、もちろん。受けたダメージを跳ね返せるようになってるんだ」
それは凄いものだと感心しながら話を聞く。
鎧もさることながら背にはこれまた目を引く大剣を担いでいる。
伝説の勇者と謳われるのも頷ける。
「な~んか怪しいわね」
同じく背に担がれた銃の精であるクロエが言った。
(何が怪しんだ。勇者だぞ)
「ほんっと鈍いわね。神代の時代の奴がなんでここにいんのよって話」
(そりゃ生まれ変わりとか……)
「断言してあげる。この世に生まれ変わりなんてものはないわ」
その言葉をそなまま街中で言えばきっと無事では済まされない。
自分が生まれ変わりだと言う奴は多い。
それが各地で出来上がる宗教の典型的な例だ。
特に貧しい地域、飢饉が起こった都市などはやたらと増える。
この世界には三大宗教として、エストファラ教、セヴァラ教、最も人口が多いとされるヱムレクタ教がある。
この世を生きるほとんどの人が宗教というものに属する。
人々にとって自分が属する宗教は生きるためにの光であり、希望である。
もっとも規則や決まりが多いのはエストファラ教とセヴェラ教であり、比較的自由なのがエムレクタ教だ。
どの宗教も生まれ変わりや神といった存在を崇める。
オルトルート連邦はエムレクタ教徒が多く住んでいて、使われている月の呼び方は十三月全て神の名を使っている。
それでも一定の人数がいる以上そのような発言は控えるべきなのである。
(おい、俺にしか聞こえないとはいえ結構危ない事言うな)
「何年世界を見てきたと思ってんの?あたしはこの男を絶対に信用しない」
信用しないのであれば証拠を見せればいいと考えたロイは自分より二つ三つ上ぐらいのパウロに頼んでみた。
「それなら魔法とか使えるんだろ?何か見せてくれよ」
もしかしたら自分の参考になるかもしれないとわくわくする。
「い、いやちょっと今はね。それに街中だと危ないし……」
随分と歯切れが悪い断り方だ。
「ここでもできる手ごろな魔法とかあるだろ?」
「ロイ、いい加減にしなさい。すみません、こいつ後でよ~く言い聞かせておきますんで」
苦笑いするパウロをよそ目にアリアスはロイを睨みつける。
帰った後が怖すぎる。
「じゃ、じゃあ俺たちはそろそろ行くよ。他にしなきゃいけない事があるからね」
手を振り去っていく勇者ご一行。
彼らの姿が見えなくなった後、恐怖の時間が始まる。
「他人に迷惑かけるな、これ何回目?」
最初は優しめに始まるのがアリアスのお説教スタイルだ。
「通算ですか?記憶にある中では五十七回目です」
誠心誠意答える。
だが逆にそれが逆鱗に触れたのだろう。
お説教は新最長記録が出る勢いで続いた。
「わかりました。もう二度としません」
「はあ、わかればよろしい。じゃあお腹すいたし大通りに戻ろっか」
日が落ちるまで大通りを満喫した。




