三十三話 ロザリンドでのひととき
ロイの顔は死んでいた。
質問質問である意味ファニクスとの戦闘より疲れているがまだまだ終わらない。
ここはロザリンド国の兵舎の一室。
戦いの翌日に早速これである。
「ほう、なるほどな、にわかには信じがたいがそれは事実なんだな?」
「俺がここまで想像力豊かじゃねぇし、嘘も上手くないのもわかるだろ」
「ああ、お前が嘘をついてるとは思えない。だとするとここにその、くろえ?だったか。いるんだな?」
「俺の横で退屈そうに浮いてるぜ」
ロイとクラインに挟まれるようにある机の上には銃が置かれている。
「この話まだおわんないの?もう何時間よ」
「まあ、文句言うなら可視状態を解いたらどうなんだ?」
「それは違う」
「何が違うんだよ」
クラインからは、今のロイは独り言でツッコミを入れるイカれた人にしか見えない。
「傍から見るとお前ヤバい奴だ。この情報がないと変人だぞ」
冷静な忠告はありがたいが傷つく。
正しい事が時に人を傷つける凶器となる場合がある。
それがこれである。
「わかってるけどなぁ。無視すると怒るしな。脳内で会話できるけど疲れるからなぁ」
「その発言を平然とする辺りがもうヤバさを醸し出してる」
「やめろ。俺のメンタルが死ぬ」
というか死んでる。
「魔遺物についてはわかった。疲れたな。休憩にするか」
「まだ続くのか」
「当たり前だ。勝手にそれを使いこすわ勝手に戦場に行くわでこっちはどれだけ苦労してると思ってんだ」
ため息を二人同時に吐いた。
「とにかく一回外の空気を吸って来い」
「そのまま逃げてぇ」
「逃げたら翼竜でヱレクタム一周旅行だ」
「絶対に戻るわ!」
その刑罰はご勘弁。
ロイはクラインに背を向け部屋を出た。
時刻はちょうど昼飯時だ。
これからどうしようかとぶらぶら歩く。
ディオーレに帰るまで五日ある。
それまではここで好きにしていいとの事。
歩いていると話し声が聞こえていた。
話しているのはロザリンドの兵士だ。
鎧を着ているのですぐにわかった。
自分の噂が広まっているかもしれないと期待に胸を膨らませながら。
「おい、ここにあの伝説の勇者って奴が来てるらしいぞ!」
「本当か!?本当だったら凄いがどうも怪しいな」
「それはないって!見た奴が何人もいるんだぜ」
「だったら見てぇもんだ」
期待の遥か上をいっている!
たった一日で伝説の勇者とまで崇められるほどになっているのか。
ここで俺が喋りかけてもいいがそれではかっこ悪いだろう。
わざと無視して通りすぎて、あれじゃね!?的展開にしよう。
少し胸を張って歩く。
「で、今どこにいるんだ?」
「さあ、でもきっと城にいるんだぜ。そんで美味い飯たらふく食ってるに決まってる」
「違いねぇな!ああ、羨ましい」
…………。
あれ、俺は?
全く気付かれないまま通過してしまった。
虚しさが凄い。
同時にその伝説の勇者という存在に会ってみたいとも思った。
この五日間で会えるだろうか。
沈んだ気分になりながら兵舎の玄関にあたる所に着いた。
そこにはいつもの二人がいた。
「かなり顔がげっそりしてるけど大丈夫?」
「朝からずっとですもんね。お疲れさまです」
「ああ、死にそうだ。ところで二人はここで何してんだ?」
外に行かずか、といって何をするわけでもない。
「まあ、ちょっとね~」
「ふふ、アリアスさんはロイさんを待ってたんですよ」
「え、そうなのか?」
「ふはは、バレては仕方ない。実はそうなのだ」
どこの悪の王様ですかと聞きたくなる。
たまにおかしなとこがあるのがアリアスだ。
「見破ったぞ、魔王アリアス!」
そのノリに乗ってしまう自分も十分に変だった。
「ど、どうしたんですか?」
「ああ、ごめん。こういうのたまにあるから、気にしないで」
「そ、そうなんですか」
知らない人からすると確かにおかしくなったと思うよな。
「お二人は本当に仲がいいんですね」
「まあ、そうかな」
「そうですよ」
ロイとアリアスは顔を見合わせ首をかしげた。
小さい時から一緒だからあんまり気にしなかったな。
「とにかく腹が減った。午後からもあるんだ。どこかに食いに行こうぜ」
「そうですね。クラインさんからお金を頂いております。どこへ行きましょうか」
「に」
「肉はもういいでしょ!昨日どれだけ食べたのよ」
昼食はヘルシー路線になりそうです。




