三十二話 二度目の花火
音のした方を見ると花火が上がっている。
「ちっ、終わりか」
吐き捨てるように言ったのはファニクスだった。
「まあ、この勝負はお預けだな。ロイ、帰るぞ」
「は?なんでだ?」
「あのなぁ……」
いつぞや見た光景だ。
「この花火がなんの合図かわかってるか?」
「開始の合図だろ?」
クラインは、こいつわかってねぇな、と首を振り降参のジェスチャーをする。
「また俺だけ知ってないタイプのやつか」
「いや、お前だけ話を聞いてないタイプのやつだ」
人の話を聞こうってことを今週の標語にしようかと思う。
「これはな、開始の合図でもあり、終わりの合図でもあるんだぞ」
賢さが上がった、気がする。
「そうなのか。それでも戦いを止めるやつなんて……」
見回すと確かに周りは戦場とは思えないほどに静かになっている。
聞こえていた鉄がぶつかる音や叫び声がなくなり、その場はただの平原に戻っている。
「でも何でそんなに花火ぐらいで止めるんだよ。それまで命をかけて戦ってたんだろ!?」
「それを言うな。神代の時代にそう決められたのだ。これ以上言うとお前を罰せないとだめになる」
「……っでも、何か納得できねぇな」
「時には心で割り切れない事もある。むしろその方が多い」
だからっておいそれと、そうですか、と言えるほど大人じゃない。
「クラインはどう思うんだ?」
「俺だって完全理解できたっていえば嘘になるが、何事も規則が大事ってのは支部長やってっと何となくだがわかる」
「そんなもんか」
「ああ、そんなもんだ」
まだ納得できない事は多々あるけど、クラインによって疑問がある程度緩和された。
この男が何も力だけでこの地位まで来たのではないというのが如実に表れていると感じる。
「……帰るぞ、アレクサンドラ」
「ちょっとは楽しめたけど早いわねぇ~。まあ、楽しい時間はあっという間に過ぎるっていうしぃ?」
そこにいたファニクスに殺気は全くなかった。
戦場のファニクスから普段のファニクスへともだっとのだ。
「じゃ~ね~、クロエちゃんのあ・る。じさん」
「……」
その言葉にロイは反応しなかった。
(やっとあれを見ずに済むわ)
(おっ、これ便利だな。喋らなくていい)
(まあ、そうね。じゃあ帰るわよ)
(おう)
クロエに返事した瞬間、ロイは座り込んでしまった。
「ロイ、大丈夫か?」
「ああ、ちょっと疲れただけだ」
クラインが差し出した手を掴んで立ち上がる。
「でも無傷は評価に値するな。あれから少し成長したな」
「ああ、あんたと戦っててよかったぜ」
それのおかげは大いにある。
基礎的な部分が学べる事ができ、また銃の使い方も知る機会でもあった。
「じゃあロザリンドに戻るか」
「そうだな。さすがにきつかった」
ここにきて疑問がいくつも増えた。
戦いの事にしても、銃についてもだ。
これからも知りたいものが増えて行くんだろう。
だが嫌な気はしない。
その逆で自ら知りたいと思う。
学校にいた時とは違う感覚だ。
その時に今ぐらいの意欲があればいい成績だったのにと後悔。
「ロイ、帰ったら何食べたい?」
アリアスの質問に笑顔で答えた。
「肉!」
帰路は賑やかなものとなった。




