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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第一章
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二十九話 死闘?

ちょっと長めになりました。

 ロイは自らの目を疑った。

 本来辺りは炎によって包み込まれ熱気で熱くなるはずだ。

 だが熱くなるどころか、涼しいぐらいだ。


水波ヴァッサーヴィレ


 と、ファニクスは唱えたのだ。

 炎に対となる属性、水によってロイの魔法は相殺された。

 地面は濡れ、炎が完全に負けた事を改めて知らせているようだ。


「この程度で私を止められるものか」


 もはや至近だ。

 銀色をした悪魔の牙のようなレイピアがロイに襲いかかる。


隠れ煙フェアシュテッケンクヴァルム


 白い煙で辺りを覆い隠した。


「小賢しいまねを」

「ホントに小賢しいわね」

「クロエは味方なんだから褒めてくれよ」


 数少ない失敗しない魔法を使ったら文句があちこちから飛んできた。

 だいたい煙を起こせたところで何の役にも立たなと昔よく学校で言われた事を思い出した。

 ちゃんと役に立ったぞと言ってやりたい。


「煙如きでは誤魔化せないぞ」


 訂正、あまり役には立ってなかったみたい。

 それでも一回の攻撃は避けられた。

 しかし以前こちらが不利でな事に変わりはない。

 向こうの対内魔力はほぼ満タンの状態だが、ロイは銃で使っている。

 この差をどう埋め、勝利へ持っていくか。


「なあ、クロエ。負けなければ勝ちだよな?」

「あんた何言ってんの?……それは自分の勝利設定によるでしょ」

「そうだよな」

「相手を倒した事が勝利なら自分が死んでても倒してれば勝ちでしょ?自分が生きていれば勝ちならボロボロでも息してれば勝ちよ」


 自分の勝利の設定は。


「それでも俺はあいつを倒す。絶対に」

「あんたにしては珍しくやる気ね」

「こっちにも事情の一つや二つあるんだよ」


 煙のおかげでファニクスとの距離ができた。

 ただもうこの手は使えない。l

 別の方法を考えなければ。


「そちらからこないならこちらから行かせてもらう。凍える濃霧フリーレンネーベルバンク


 日が差してカラっとして雲一つない晴天が一転、ファニクスの姿をうっすらでしか目視できないほどに辺りが霧に覆われた。


「これで貴様の炎は使えまい」


 炎は湿気があると、威力が急激に弱まってしまう。

 さらにこの濃さだ。

 炎で応戦する事はできない。

 だとするとロイは魔法自体が不得のため、魔法は一切使えない。

 これまでのロイならば。

 ただ一つ残された属性がある。


「まだ驕るには早いぜ」


 もう一つの得意属性、闇だ。

 一度たりとも使った事はないが、この状況ではそんな呑気に迷っている暇はない。

 それにクロエにもいくつかの闇属性の魔法を教えもらっている。

 知識がゼロではない。


「さあ、くらえ!冥府の監獄オルクスゲフェングニス!」

「ッッッ貴様!それをどこでッ!」


 どんな魔法かは知らないがこの反応だ。

 きっと凄いに違いない。


「あんたそれっ!」

「何だ、クロエ!?」

「そんな魔法あんたに使いこなせるわけないでしょ!?これは一例でって教えた魔法じゃない!それを忘れたの!?」


 クロエは間違っている。

 いや、忘れたというより聞いてなかったが正解だ。

 当然の如く何も起こらない。


「はったりか。とんだ茶番だ。これで終わらせる!」


 相当頭にきたようだ。

 二度目のレイピアでの近距離戦に持ち込もうと、ファニクスは気に距離を詰める。


「近距離だと分が悪すぎる」

「対策も考えてないんでしょ?まあ、でもこの銃って案外硬くてあんな細い武器なら難なく弾けるけどね」


 クロエは独り言みたいに言ったが、教えるためにわざとらしい口調をしたのだろう。

 とにかくこれを使えば……ってレイピアって普通の剣みたいに斬るんじゃなくて突くような攻撃だったよな、さっき?


「ああ、結局使えねえじゃん。もういい一か八かだ!透明なる殺人者ドゥルヒズィヒティヒメルダー!」

「何ッ!?消えた!?」


 そこにロイの姿はなかった。

 残っているのはファニクスただ一人。


「くそッ!あんな魔法を使えるとはッ!」


 ファニクスは弄ばれているように感じ、頭に血が上る。

 辺りを見回す。

 霧の所為で遠くまで見えない。


「どこへ行った!出て来い!」


 その瞬間素早く振り向き何者かの攻撃をレイピアで斬る。

 しなるように斬ったのは間違いなく銃弾だった。

 飛んできた方向を見たが人影はない。

 どうやって狙いを定めたのか。

 ファニクスの考えでは、まず魔法で透明になった。

 しかしそれも長くは続かないはずだ。

 それはあの冥府の監獄オルクスゲフェングニスが成功しなかった事が理由だ。

 そこでこの霧に紛れた。

 紛れてから何らかの手段を用いて正確に狙いを定め撃った。

 まだ近くにいるのはわかっている。

 この霧を消すか。

 それともこのまま炎を使えない状態にしておくか。

 ファニクスは周りから突然くるかもしれない攻撃に最新の注意を払いつつ考える。


(ふははは、あいつ迷子の子供みたいになってるぞ)

(そうね。でもこれじゃ埒が明かないんじゃない?)

(これ俺の頭の中だよな?なんでクロエの声がするんだ?)

(あたしもいるからよ)


 思わず驚愕の声を上げそうになった口を押えた。


(脳内で会話できるのかよ)

(言ってなっただけ)


 またこの言ってない理論だ。


(で、何とか隠れる事は出来たけどこの後のプランは?)

(銃で闇撃ち)

(さっき失敗したように見えたけど?)

(まだ小手調べだ)


 ファニクスの考えはぴたりと当たっていた。

 肝心なのはこの霧の中でどうして狙いを定める事が出来たかだ。


(それにしてもこの銃はすげぇな。知れば知るほど驚きしかない)

(なんたってあたしがついてる武器よ。その辺のやつと一緒にしないで)

(これって二通りの照準の定め方があるんだな)

(一直線にしか撃てないアレクサンドラと違って、動くやつと、体温があるやつ二通りあるわ)


 理屈はわからないが、そうらしい。


(あたしの目には今もくっきりとみえてるわ。これってさーもぐらふぃーって言うらしいんだけどそんな事あんたに言ってもわからにわよね)

(そうだけど何かムカッとくるな)

(銃のすこーぷ代わりになってやってんだから少しは我慢しなさい)

(すこーぷとかもわけわかんねぇ)


 要するに狙いを定める道具みたいなものだろうと一人で納得する。


(そろそろお話しも終わりよ)

(一言も発さずに会話が終わったなんて初めてだ)

(思った事すぐにわかるんだからね)

(まじでか……アレクサンドラはクロエよりでかいな。全体的に)


 頭の中で爆発のような音が鳴った。

 外に漏れるほどの大音量だ。


(次から気を付けるよーに)

(すみませんした。二度としません)

(じゃあさっさとあいつを片付けなさい)


 悪者の頭みたいな命令だ。

 それに闇討ちってもはやこっちが悪者みたいだ。

 クロエの支持通り銃を言われた方向へ向ける。

 ほんの僅かでも一直線になるほうが体内魔力を消費しないらしい。

 

(よし、派手に何発かいっとくか)

(もしここにいるのがばれてもすぐ離れれば問題ないわ)


 一方的な殺戮ショーになりそうだが、ここは戦場なのでここではエンターテインメントととして歓迎されるだろう。

 観客がいないのが残念ではあるが。


(逃げる準備も完了。俺、撃ちます)


 赤の魔法陣、無属性を表す灰色の弾が発射された。


(これって?)

(ここじゃあ炎は無駄でしょ。だから誰でも使える無属性にしてもいたの。感謝しなさい)

(最後の一言がなければ完璧なのになぁ)

(だから全部丸聞こえって言ってるでしょうが!)


 弾による爆発音や起こる何らかの音が聞こえない。


(斬られたか、避けられたかだな)

(静かに場所を変えるわよ)


 霧で見えないのはこちらも一緒だ。

 だがクロエによるすこーぷなる物のおかげでファニクスの位置はわかる。

 それを元にクロエの言う方向へ進めばいい。


(それにしても変ね。あいつあそこから一歩も動いてないわ)

(迷子になると動けなくて蹲っちまうだろ?似たようなもんだろ)

(あれは……ファニクスって男じゃないかもっ!?)


「そこかロイ!見つけたぞ!」


 すぐそばにずぶ濡れのファニクスがいた。

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