二話 出会い
そこに現れたのは筋骨隆々の二本足、何メートルもある土の色に似た胴体、全てを薙ぎ払う長い尾、口から溢れるほどの牙、見た者を凍らせる鋭い眼光。
「こいつ陸竜だ」
「で、対処法は?」
「逃げる」
「また!?」
よく見るとまだこちらには気づいていなさそうだ。
眼光は鋭いが目はあまりよくなかったはず。
それともう一つ何か特徴があった気がするが思い出せない。
「ゆっくり移動しよう。そうすれば気付かれない」
「そ、そうね」
近くに隠れられそうな場所がないので差し足抜き足忍び足で陸竜とは逆方向へ進む。
進んでいるとずっと部屋にいて走り回って体温が変わりすぎた所為でくしゃみをしてしまった。
その瞬間、陸竜がこちらを向いた。
「あ、そうだ。思い出した。こいつめちゃくちゃ耳がいいんだ」
「え、見つかったの?」
「そうみたいだ」
数十メートルの距離をすぐさま詰めてくる。
「武器があれば戦えるんだけどなー」
「あんた武器使えないじゃん。テストでも下位だったくせに」
「あれはノーカウント。じゃあ魔法で」
「それも下位だったじゃん!」
人に見られると自分の力って出せないよなぁ。
なおも近づいてくる。
「ああ、もう私がやる」
「待ってました」
アリアスの魔法は確かテストでトップの成績だったはず。
「ロイ!ちゃんと見ておきなさい。これが魔法よ。鋼鉄の棘!」
灰色の鎖にも似た棘が陸竜に絡みつく。
突進は棘によって完全に停止させられている。
「さっすが主席」
「防衛学専攻だからね。ってあんたもか」
「じゃあ俺がとどめを刺しますか」
ロイは魔法が得意とはいえない。
しかし腐っても世界最高の帝国魔術学校を出ている者である。
「これで終わりだ!焼き尽くす焔!」
手から放たれた火炎は一瞬にして陸竜を包み込む。
のたうち回ろうとするが鋼鉄の棘によりそれをすることを許さない。
やがて力尽きてまったく動かなくなった。
「おお、思ったより上手くいったな」
「いいとこ持ってかれたけどね」
勝利の余韻に浸る。
だがそれもつかの間、これからの行き先を決めなければいけない。
「もう家には帰れないね」
「そうだな。それよりも親は大丈夫か?」
「大丈夫なわけないじゃん」
すっごい心配してるだろうな、まあ、俺には親いないけど。
あの町には当分の間帰れそうにはない。
町ではもう指名手配でもされてそうな勢いだ。
だとすると近くの町にでも行くしかないが、ここの辺りは全て帝国領で、明日中にはもう手配書が出回っているかもしれない。
「とにかく別の町に行こう。ここにいても仕方がない」
「それでどこに行くの?」
今いた町がヴァルフガング帝国第二年都市のイェレミーアスだ。
ここから近くだと東の帝都ラインヴァルトになるが、帝都には部外者が入る場合に許可書がいるため候補から外れる。
となるとそれ以外に近い町は北にある第三都市のフレーデガルトだ。
決して近くはないがこの際文句は言ってられない。
「フレーデガルトに向かおう」
「そうね。私もそう思ってたわ」
二人は北へと歩き出した。
しばらく歩いていると岩にもたれ掛かっている人がいることに気が付いた。
「あれ、人だよね」
先に見つけたのはアリアスだった。
掌に小さい炎を灯している。
辺りは暗闇で光もなしの歩くのは危険だという事でアリアスが魔法を使って照らしている。
「近づいてみるか」
アリアスが近づいて照らすとそれは同い年ぐらいの少女であることがわかった。
「なんでこんなところにいるんだ?」
どうやら眠っているようだ。
それよりも目につくのが服装だ。
煌びやかで上流階級の一部の人間しか着れない非常に高価なものだ。
少女一人を置いていくのもどうだろうか。
「起きるまで待つか」
「そうね。もう真夜中になっちゃってるしね」
今晩はここで過ごす事になるのか。
アリアスはそっと炎を消した。




