二十八話 戦闘の幕開け
クロエはすこぶる機嫌が悪そうだ。
自分の弱みがばれた、と声には出さないがそう伝わってくる。
ここは触れないでおくか、それとも好奇心のままに聞くか。
「なあ、本当に姉なのか!?」
迷わず聞きました。
「……ホントよ!」
「そ、そうなのか。へぇ、姉妹とかあるんだな」
「……」
黙ってしまった。
空気が重い。
「おい、アレクサンドラ。本当に妹なのか」
「いやぁ~ね。妹かどうか見分けもつかない女って思われてるのかしらぁ?」
「悪かった。確認したかっただけだ」
「じょーだんよ。さぁて、お話もそろそろお終いかしら?」
一瞬で殺気が立ち込める。
特にアレクサンドラと名乗った女は別人にでもなったかのようだ。
「アレクサンドラ、まずは私の力だけでいかせてもらう。異論はないな?」
「そーね。じゃあ私は見させてもらうわ。クロエちゃんの成長を」
ファニクスは腰に携えているレイピアを抜き構える。
「そんなに嫌ならあいつらぶっ飛ばしてすっきりしようぜ」
「……そうね。一度あの人には痛手を負ってらわないといけないわね」
ロイは銃をいつでも撃てる態勢を整え、ファニクスを見る。
あのレイピアは魔遺物だろうか。
だとしても近距離武器だ。
間合いを取りつつ戦えば負ける気はしない。
「とにかく開始の合図で一発撃っとくか」
赤い魔法陣、赤い弾をファニクスへ放つ。
これで倒せるわけはないだろうが、相手の強さを測る事ぐらいはできるかもしれない。
ファニクスは動かず佇んでいる。
「遅い」
ロイには口を動かしているのは見えたが何と言っているのかまでは聞き取れなかった。
その直後の攻撃にロイは唖然とした。
ファニクスが赤い弾をレイピアで斬ったのだ。
弾は真っ二つに割れてファニクスの後方で二つの火柱が上がる。
「おい、マジか……あんなのありかよ」
「わかったと思うけどあれはただのレイピアではないわね」
「それぐらいしないと帝国の大将っぽくねぇからな」
斬る瞬間何を言ってたか知りたいところだ。
勝った時それも聞いておこう。
ファニクスは間合いを詰めてくる。
近距離武器だから当然だ。
だとしたら次に取るべき行動は何か。
「後ろに下がりつつ、撃つ。照準は頼んだ」
「これあたしの役なの!?あんたやりなさいよ」
「言い分は帰った時に聞くからやってくれ」
まだご機嫌斜めのクロエはぶつぶつ文句を言いながらもやってくれた。
ここは単発で撃って、いやそれだと容易に間合いを詰められるか。
魔法については習ったが、銃での戦闘方法については一ミリも習っていない。
それに自分は近距離用の武器を持っていない。
失敗だったか。
悔やんでも仕方ない。
一発でも当てられればいいのだが、あれを見せられるとなかなか希望を持てない。
ファニクスはぐんぐん速度を上げ、近づいてくる。
今度はクライン戦とは違うのだ。
相手も本気で殺しにかかってくる。
逃げてては勝てないな。
「クロエ、後ろには下がらずに戦う」
「はぁ!?あんた死ぬわよ」
「どうせ下がったって死ぬ奴は死ぬさ」
「ちょっとでも長生きしようとするのが普通でしょ!?」
普通でやってても勝てない戦いだ。
あの弾を斬った時そう感じた。
なら普通じゃない戦い方をすれば勝てる要素が出てくるかもしれない。
そっちに賭けた方が楽しいと思った。
「眷属なんだから少しは主人の言う事ぐらい聞け。ってかこれ初めての命令かもしれないな」
「その初めての命令が最後になるかもしれないから言ってるんでしょ!」
でもなんだかんだで言う事聞いてくれるのがクロエなんだよな、と心で呟く。
戦闘中に何話してんだ。
ここから集中。
ファニクスはもう五秒もすればレイピアのリーチが届く範囲まで来ている。
そのファニクスの顔に慢心の色はない。
むしろ疑問があるようだ。
それはロイにファニクスが近づいても撃ってこないからだろう。
好機か。
この状況でロイが繰り出した魔法はやはり炎属性だった。
「焼き尽くす焔!」
周りの広範囲を赤い炎が包むはずだった。




