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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第一章
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二十五話 血だまりの戦場

 腕には深い切り傷があり、顔に飛んだ血が乾いているバショットは、ロイにそう問うた。


「えっ、俺か?」


 バショットは目で、そうだと訴えかける。

 確かにこの治療班である事に不満がないわけではない。

 ただそんな話が舞い込んでくるとは思ってもみなかった。


「このままでは引き分けどころか負ける。今は一人でも兵が欲しい」

「でも俺だけが行っても変わらないだろ」

「お前は、それを使えるんだろ?だったら……可能性はある、だろ?」


 バショットが目線を送る先には背負っている銃がある。


「え~、何か死にかけのおっさんに見られてるんですけど……」

「いや、仮にそうだとしても失礼すぎるだろ……って声だけ!?」

「可視状態じゃないと声が聞こえないなんて言ってないけど?」


 クロエは言ってなかったらなんでもありの考えだろうか?


「ああ、そうだな、バショット。ちょっとひと暴れしてきてやるぜ」

「ははっ……俺みたいになるなよ」

「おう!」


 バショットに背を向けテントの出入り口カーテンを開けた。


「ちょっとロイ、どこいくの?」

「そこまで戦場に」

「えぇ!?何その買い物行くみたいな言い方!?」


 アリアスに返事をせず、走って戦場を目指す。

 戦場まで少し距離はあるが走ればすぐに着くだろう。

 それにしても不思議なのはバショットが傷だらけながらも帰ってきた事だ。

 あの手の男は死んでも帰らないというものだと思っていたが想像と違った。

 何か理由でもあるのだろうか。

 しかし今は戦いだ。

 他の事考えていてはバショットの二の舞ににるかもしれない。

 気を引き締めていこう。


 戦場は帝国がずっと優勢を保っている。

 死傷者も少なく、価値はほぼ決まったようなものだった。


「結構押されてんなぁ……」


 他人事のように呟いたのは産まれて初めて戦場というものを見たロイだった。

 血が当たり前のように流れ、死体が転がり、悲鳴と雄叫びが絶える事無く耳に入ってくる。

 その場はこの世とはかけ離れいていると感じざるを得なかった。

 覚悟はしていたつもりだが、それを揺らめかす惨状があった。

 しかし臆している暇はない。

 剣と剣がぶつかりあう中敵兵を目指しひた走る。


「あんた何してんの?」

「何ってそりゃ戦いよ!」

「武器が遠距離なんだから後方から狙撃すればいいでしょ?」

「……それはそれ!」


 クロエのいう事が百パーセント正しいが、きてしまったからにはしょうがない。

 目に入った黒い鎧を纏った兵を片っ端から撃つ。

 魔力なんて関係ない。

 とにかく一人でも多くの兵を鎮める。


「へえ、ちょっとびびって逃げるかと思ったけど案外やるのね」

「……当たり前だろ」


 ぼそっと、クロエに聞こえるか聞こえないかぐらいの声で言った。

 今の今まで忘れかけていた。

 帝国への復讐心を。

 昔の自分には力があまりにもなかった。

 だがこれからは違う。

 魔遺物ツァオベライユーバーレストという自分にしか扱えない最強の武器が手に入ったのだ。

 クラインに敗れてからも魔法について学んだ。

 この戦場では自分が一番強い。

 それを証明するかのように周りに攻撃を仕掛ける。

 銃の先端に浮かび上がる赤の魔法陣。

 飛んでいく弾の色も赤だ。

 着弾すると辺りを炎で包み込む。


「これは?」

「赤の魔法陣は攻撃系統、赤の弾は炎属性ね」

「へえ、クロエがやってくれたのか?」

「そうよ。今回は練習じゃないからね」


 その魔法陣と弾を見た帝国兵は口々に言う。


「な、なんなんだその武器はぁ!?」

「知るかよ!クソがぁぁ!」


 仲間をやられ頭に血が上って、剣を構えロイへ一直線に走る。

 だが銃を持っているロイ対しては全く意味をなさなかった。

 簡単に狙いを定め、引き金を引く。

 兵は炎に飲まれ跡形もなくなった。


「ひ、ひぃぃい!!」


 もう一人の男は一目散に逃げだした。

 逃がすまいと銃口を向ける。

 だが撃つ前に近くにいた別の兵が迫ってくる。

 近くの兵を相手にして倒すと、すぐ逃げた方向を見たがその男は逃げ切った後だった。


「ちっ、運のいい奴だぜ」

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