二十三話 戦いの前日
ロイはえらく乱暴に叩かれる扉の音に、少し機嫌が悪くなりながらも目が覚めた。
「おい、出発だ。起きろ」
「明日だろ行くの」
「ここから直接ローラント平原までいくわけないだろ。早くしろ」
声の主はクラインだったが、いつもより愛想がないどころか怒り気味だった。
「はいよ」
何があったかは知らないがここは穏便にすまそうと起き上がり、銃を担いで扉を開ける。
そこにはクラインの他にアリアスとラーシャもいた。
「おはようございます、ロイさん」
「ああ、おはよう」
「ちゃんと起きれたのね。珍しい」
「雨でも降るぞ。傘を忘れるなよ」
もう自分で言ってしまう辺り起きれない自覚がある。
「今からどこに行くんだ?」
「ローラント平原で作られているキャンプみたいなとこだ。今日はそこへ行く」
「りょーかい」
クラインを先頭に三人は後ろでついて歩く。
ローラント平原はこのロザリンドから東に行った所にある。
北にはビルギット山脈、南には大中海と自然に挟まれる形になっている。
それとさらに東にあるクラウディウス平原がオルトルート連邦とヴァルフガング帝国との境の基準である。
「向かうのは我々だけでしょうか?」
「そうだ。だが向こうに着けば反乱軍の奴らも大勢いる。この戦いで顔を売っておけよ」
まだ反乱軍の人達とは挨拶もしていない。
歓迎会というの名の飲み会で暴れいていたのを一方的に眺めていただけだ。
「移動は徒歩でしょうか?」
「距離があるから用意してる。あれだ」
兵舎を出て裏に回った所にいたのはすらりとした四本足を持つ馬だ。
「これに乗った事はあるか?」
「ええ、馬術は少々」
「ちっちゃい時にね」
「……」
なんで皆経験あるんだろう。
ラーシャはまだわかるとしてもアリアスまでとは。
敗北感が凄い。
「二人はいいとしてロイ、ちゃんとついてこいよ」
「ご期待に応えられるようにするよ」
「安心しろ。誰も期待なんぞしちゃいねぇ」
最近自分の周りが冷たい事に疑念を抱きつつ、クライム指導のもと馬に跨る。
「よし、全員乗れたな。じゃあ行くぞ」
その号令によって皆一斉に手綱を振るった。
置いて行かれまいとロイも見よう見まねで振るった。
快調に馬を走らせ約二時間程度。
キャンプと思われるテントが見えてきた。
いくつもあるそれはちょっとした町のようだ。
ロザリンド国を象徴するオレンジと白の縞模様が鮮やかに映える。
「着いたぞ。ここだ」
クラインが馬を繋いでいる縄をそれ用に設置された木でできた停留場にかける。
三人も真似をしてかけた。
「軽く飯でも入れるか」
「なぜ食べてからこなかったんだ」
「こっちで食った方がいいだろ?」
時刻はちょうど飯時だ。
テントの外には鎧を着た男で賑わっている。
鎧以外を見れば祭りでも始まりそうな雰囲気だ。
並べられた縦長のベンチとテーブルには、すでに人が座っていて料理も並べられている。
「よお、クラインじゃねぇか」
「相変わらずだな、バショット」
この感じは苦手だ。
そっちは知っていてもこっちは全く知らないから気まずい。
「お前らがクラインが連れてきた若造だな。せいぜい生き残れよ」
笑いながら去っていく。
こっちは前線にはでないから死ぬ確率はゼロに近いんだがな。
「とにかく、お前らは飯食ってろ」
「クラインはどっかにいくのか?」
「おう。支部長としての仕事がな」
急ぎ足で一番大きいテントへ向かっていった。
「長ってのも大変だな」
三人はさほど興味を持たず昼食をとった。
緊張感がないが戦いの日は明日だ。
各々表に出さずとも心では緊張にも似た感情を持っていた。




