二十二話 クロエについて
戦いまであと二日。
朝起きたが、戦いの日までそれまでする事が思いつかない。
二階から町を見るが、どこか遊びに行くにも金がないので楽しめない。
クラインには身体を休めておけと言われている。
さて困ったこの状況。
「ぼーっとして、どこ見てんの」
「う~ん」
こんな何もする事がない時間は何をすればいいのだろう。
したい事か。
そういえばまだクロエについて何も知らなかったな。
「なあ、お互いまだあんまし知らないよぁ」
「何言ってんの。あんたはバカで甲斐性なしでしょ」
よくご存じでした。
「そっちは知っててもこっちは知らないんだよ」
「あたしについて知りたいの?」
「まあ、そういう事だ」
「いいわ。話してあげる」
これで今日は暇なく過ごせそうだ。
「まずあたしはクロエルローラね。この魔遺物の中でも銃っていう種類の精みたいなもんかな」
「待ってこれ銃っていうの?俺ずっと長ったらしい名前で呼んでたのに!?」
初っ端からインパクト大だ。
「あたしもずっとカテゴリで呼んでるからバカなのかと思ってたわ」
「思ってたなら言ってくれ。危うく自分自身でバカなのかと思いかけたわ」
「いや、あんたはバカだけど……」
「……」
ひどくないですか、これ。
「で、あたしを使える条件知ってる?って知ってるわけないわよね~」
「俺の答えを予想して円滑に話を進める技術高すぎないか?」
「無視するけど、一般人とかにはあたしに触れても何の変化もないのよ」
「俺の心には変化が表れてるぞ。負の変化がな」
ここまでくると逆に清々しいほどだ。
それにしても一般人に表れないのに、一般人代表みたいな俺が表れた理由が気になる。
「いくつか条件があってその魔遺物と得意属性が同じという事と双属性っていうのが主なとこね」
得意属性については昨晩聞いたが双属性とは聞いた事がない。
学校ですらでなかったものだ。
「その双属性ってのはなんなんだ?」
「えっ!?あんた自分がそう属性だってわかってないの!?」
「わかってないの何も聞いた事すらないな」
「いい?得意属性は一人一つ。でもこれは絶対じゃないの。ほんのたまにいるのよ。二つ得意属性を持つ人が」
それは初耳だ。
火属性魔法しか使った事がなかったからわからなかったのだろうか。
「で、俺は火ともう一つってわかるか?」
「えぇと、火と……闇ね」
「そうか。そんな事もわかるのか。にしても闇か」
火属性しか使えないと思っていたが、これで少しは魔法のバリエーションが増えるかもしれない。
「闇魔法使えるとか思った?闇属性は扱いが難しいし魔力たくさん使うから向いてないかもね」
「そ、そうなのか。じゃあ今から魔法についてもっと教えてくれ!」
「あたしの授業はスパルタよ。ついてくる事ができるかしら?」
「もちろんだ!」
飯を食べる事も忘れてクロエの話を聞いた。
気付けばもう夕方。
昨日見た光景と同じ綺麗な街並みだ。
「さてこんなもんね。おつかれさん」
「ああ、結構長い時間やったんだな」
「そうね。最初の目的とだいぶズレちゃったけど」
「いつのまにか魔法の話になってたしな」
クロエの話に戻したかったがそろそろ飯を食わないと死にそうだ。
ずっと可視状態だから魔力も減っている。
身体が少し怠い。
「ちょっと食ってくるわ」
「いってらっしゃい」
軽く挨拶を交わし部屋を出る。
まだ慣れない所で右も左もわからない。
とりあえず隣の部屋にアリアスはいるか確かめに行こう。
ノックをすると中から返事がした。
「は~い。どちら様でしょうか」
「隣の者ですけど」
「えぇと、隣って……ロイじゃん」
扉が開く。
「やあ」
「やあ、じゃないわよ。何しに来たの」
「腹減ったから」
「私はあんたのシェフじゃないのよ」
そこから培ってきた対アリアス用交渉術を使って何とかその日初めての飯にありつく事ができた。




