二十話 それぞれの準備
月日はあっという間に流れていく。
本日、十二月八日。
現在ローラント平原での戦いへ向かうため移動している。。
兵士の指揮、運べる食料を考えるとあまり早くに向かう事はできない。
日程としては向かうのに二日、ローラント平原で一日、帰還に二日の合計五日間を予定している。
隊を作って列をなす様は蛇の体のようだ。
物資を車輪の上に物資を乗せた物を運ぶ役なのは、猪人だ。
ここでも力仕事を任されている。
ここにいる彼らは皆同じ鎧や兜を装備している。
帝国特有の黒い甲冑だ。
帝都の北東に位置する第一都市オルトヴィーンにあるベルンフリート鉱山で取れる黒淵石を使っているためこうして太陽に照らされて黒光りするのだ。
人間と猪人とは体格が違うので甲冑の大きさも全く別だ。
「ねぇ~え、ファニクス?まだ着かないの~?」
「ああ、まだまだだ。でも浮いているアレクサンドラなら関係ないだろ」
ふわふわと宙を泳ぐアレクサンドラは、愚痴をこぼす。
「だってぇ、原っぱ原っぱで全然景色かわんないんだも~ん。飽きちゃった」
「後五日間だ。我慢してくれ」
「えぇ!?五日間!?……おやすみっ」
言い残して姿を消してしまった。
これで少しは静かになるか。
帝国の進軍は始まったばかりだ。
「おい、お前ら出発の準備はできたか」
声をかけたのはクラインだった。
「出発の準備っつったって、俺らここに来る時何にも持ってなかったしな」
「心の準備的な?」
「ああ、なるほどな」
「戦いを前にしてその雰囲気とは余裕だな」
クラインははっは、と笑う。
「じゃあ行くか」
「おう……」
「元気ないわね。まあ、理由はわかるけど」
今から向かうのはローラント平原で起こる戦いに参加するため、そこに一番近いロザリンド国だ。
そしてそこに向かうためには、またあれに乗らなければならない。
「あれだけは勘弁……」
あれとは翼竜だ。
ロイはそういうものを大の苦手としている。
「安心しろ。前回お前らが乗ったのは非公式のやつだ。今回のは乗り心地は最高だぜ」
「鞍とかそれ以前の問題なんだけど……」
あの体験をまたする事になるとは。
空中都市だから一生乗らないわけいはいかないだろうが、早すぎないか?
「ロイさん、元気出しましょう。ロザリンド国は食の国とも言われています。きっとお気に召す物が見つかりますよ」
「そうなのか。それまで持てばの話だけど」
翼龍がいる場所へ行くまで足が重たい。
空を飛ぶこと二~三時間。
やってきましたロザリンド。
「待って。もう無理」
「だ、大丈夫ですか。ほらあれ見てください。綺麗な街並みですよ」
顔を上げるとそこには緑色の屋根、赤色の煉瓦で統一された、それは美しい町があった。
「おお、これがロザリンドか。で、飯は?」
「たくさんありますよ。何がいいですか」
「肉……」
「ここはロイの元気を取り戻させるためにも行くしかないわね」
しかし皆ここに来たのは初めてだ。
店の場所はわからない。
ロイに聞かれないようにこそこそと話す。
「すみません。食の町って聞いただけなんです。いい方法はありますか?」
「だと思ったけど……ちょっと、クラインは何か知ってる?」
「ああ、あるぜ。いい店がな」
これでロイの気持ちは何とかなりそうだ。
辺りは日が沈みかけており、夕焼けと共にまた違ったロザリンドの顔を見せている。
「はぁ~、食った食った」
「よかった。調子も戻ったみたいね」
「元気ばりばりだぜ。今ならクラインを倒せるかもしれねぇ」
調子は戻るどころか最高潮の域にまで達しているようだ。
「俺とやるか。いつでもいいぜ?」
「よし、また今度やろうぜ。約束だぞ」
「ああ、約束だ」
「あんたらどんだけ仲いいのよ」
クラインにつれられ、今夜寝泊りする所へと着く。
「さあ、ここだ。早めに寝ろよ?」
「ここってロザリンド国の兵舎よね?」
「そうだが?」
「まさかロザリンド国と一緒に寝るのっ!?」
アリアスは反乱軍とロザリンド国が繋がっている事よりもそっちに驚愕した。




