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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第一章
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十九話 この世界での戦争と生きる種族

 この世界における戦争はの理念、規約が作られたのは神代の時代、ヱレクタム歴が始まる前の神代の時代だ。

 ここの文献には細かなルールが書かれてる。

 関係がありそうな物を手当たり次第に取って、席へと着いた。

 載っているのは戦いは事前に時間、場所を決めておかなければならない事、また人数も均衡していなければならないという事などだ。

 なぜそのようなルールが制定されたかはわからないが、これまで誰もこのルールを破った者はいない。

 破った者は生かしておいてはもらえないだろう。

 それほどこれは神聖なものとして残っている。

 全部読むには、一日を余裕で超すほど書かれているが、もう戦いはそこまで迫ってきている。

 一息ついて、思慮をめぐらす。

 戦力において一番重要なのはやはり数が圧倒的に多い歩兵だと考えた。

 ヴァルフガング帝国では歩兵の実に半分が人間ではない。

 獣人と呼ばれる種族で構成されている。

 その中でも腕力の強い猪人族エーバーが選ばれている。

 平均身長二メートルの、人間より優れた体格を持ち、全身を茶色の毛で覆った生き物だ。

 しかしそのためか、人間には好かれていない。

 自分と同じ環境、暮らしをできないように差別されているのが現状だ。

 帝国では、隔離され、帝都には入る事ができない政策がとられている。

 それがまた差別に拍車をかけている。

 猪人エーバーのみならず、全獣人族に該当する。

 狼人ヴォルフ猫人カッツェ狐人フクスどれもだ。

 戦いに駆り出される猪人エーバーは飼い慣らされた主人を守る番犬に等しい。

 猪人エーバーは普通なら人間の世界に関わる種族ではない。

 山や森に住んで、自然と共に生きて行くはずだった。

 ところが時代が進むにつれ、労働力が必要となり、無理やり人間の生活を豊かにする道具として扱われてきたのだ。

 まったく、人間とは随分勝手な事ばかりしてきたものだ。

 長時間座っていると腰が痛くなってくる。

 伸びをすると、隣に突然誰かが現れた。


「ファニクスもたいへんねえ。お姉さんが癒してあげよっか?」


 にやりとこちらを弄ぶように笑う。


「アレクサンドラ、よしてくれ。僕は今疲れてるんだ」

「疲れてるからこそ癒されるんじゃないの?」


 どうも今日は調子が上がらない。

 陛下との話での負けをまだ引きずってしまっているみたいだ。


「ほぉ~ら、元気出しなさい。主人がテンション低いんじゃ私もやってられないわぁ~」


 そう言って自分の胸を左腕に当ててきた。

 露出度が高い服との組み合わせでますます目のやり場に困る。


「魔力を使うんだから可視状態を解いてくれ」

「ファニクスがいんき~な顔してるから来てあげたのにひどいわね」

「察してくれたのは嬉しいが、今はそれどころじゃないんだ」

「私はファニクスの事を思ってしたのに~。もういいわ」


 悲しそうな声で言ってはいるが、内心ではそうは思っていないだろう。

 心がよみやすいのか、にくいのか。

 アレクサンドラは、これを手にした時から突如見えるようになった。

 長さ三十センチメートルぐらいのそれは黒く輝いて、持った者を引き付ける謎の魅力みたいなものがある。

 手触りも見た目もこの世界で作られたとは思えない。

 不思議な物、それが魔遺物ツァオベライユーバーレストだ。

 それについて書かれた書物には銃、と表記されていた。

 魔遺物ツァオベライユーバーレストの中にも種類が分けられているということだろうか。

 とにかくここでのやることは終えた。

 来たる十二月の十一日、それまでの十二日間でやれる最善のをしなければならない。

 ファニクスは次に敵軍についての情報がいると考えた。

 立ち上がって銃を内ポケットにしまい、情報室を後にした。


 帝都の城の中は慌ただしい。

 姫が二人いなくなって五日経つ。

 目撃情報は出てはいるが、どれも信憑性に欠ける。

 それでも陛下は顔色を崩さなかった。

 自分に反対していたからか。

 だとしても娘だ。

 ファニクスにはシェヴァリエという男が何を考えているのか全くわからない。

 戦いの準備に専念したいが、どうも腑に落ちない。

 物思いに耽りながら歩いていると、もう目的の部屋だ。

 ノックをして入る。


「ファニクスさん!戦いで指揮を執るって本当ですか!?」


 この男の名前はアスレット・フィンデッガー。

 ファニクスの忠実なる部下であり、右腕として今まで何度も支えてきた、信用できる男だ。


「ああ、本当だ。早速で悪いがオルトルート連邦の情報を見せてくれ」

「わかりました。取ってきます」


 書類が綺麗に整頓され非常に見やすい。

 急な用事にも対応できるようになっている。


「えぇと、これです」


 机に置かれたのは片手で持つのが精一杯の大量の紙だ。


「これで全部か?」

「はい、しかし全部に目を通すには少々時間を有してしまいますので、私が重要な部分だけまとめさせてもらいます」

「助かる。そうしてくれ」


 待つ事五分。

 あれだけあった書類が三分の一、四分の一までになっていた。


「こちらです。まず敵兵の数、種類なんですが……」


 ファニクスとアスレットによるオルトルート連邦打倒会議は夜遅くまで続いた。

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