一話 旅立ち
「帝国の者だ。扉を開けろ」
まだ一口も食べてないんですけど!?
帝国ってことは俺の上司的な人々ではないか。
「どうしよう。開ける?」
「いやいやいや、ちょっと待て。……逃げよう」
「はあ!?」
このままのこのこ出て行っても捕まるだけだろう。
逃げるしかない。
「おい、ロイ・ヴィンフリート!早く投降しろ!」」
さらに凄んだ言い方で扉を叩く。
「と、とりあえず裏口から出よう」
「ってなんで逃げるの?」
「だいたいこうゆうやつは逃げた方がいい。そっから先はそん時考えればいい」
「あんたよくそんな考えで生きてこれたわね」
「こういう危機はなかった」
人生最大の危機だ。
裏口の方に回って窓から外の様子を見る。
どうやら敵影はないようだ。
「ダッシュで行くぞ」
「えっ、う、うん」
ハンドサインで合図を出して一気に飛び出して走る。
とにかく走る。
だが運が悪いことに開けた扉が閉まりその時に音がなってしまった。
「おい!逃げたぞ!」
予想以上に見つかるのが早かった。
「ど、どこに逃げる?」
「え~と、外」
「ここも外だけど」
「町の外!」
走りながらの会話は疲れるのであまり話さない方がいい。
後ろには帝国兵が続く。
何かを喚いているが風を切る音しか聞こえない。
それにしても帝国兵も存外足が遅いものだ。
それは鍛えているにしてもいないにしても重い鎧を着ているからに他ならないのは、それを毎日着ているロイには痛いほどよくわかる。
「町の外って出る方法かんがえてあるの!?」
この帝国は周りを分厚い壁で円を描くように守られている。
そのため出入り口は両開き扉のような開閉ではなく上から扉を下して閉める形の門である。
門は一つだけで出るとしたらそこしかない。
守りやすさと安全性を考慮した造りである。
「大丈夫。簡単に突破できる」
笑って見せるがそろそろ息切れしそうだ。
大通りを出たり路地裏に入ったりと入り組んだ町を爆走した。
辺りは完全に闇に包まれたのにそれでも帝国兵は減るどころか確実に増えている。
最初は二人だったのにいつの間にか倍になっている。
「よし!見えてきたぞ。あそこまで最後のダッシュだ」
アリアスの手を引きながらの逃走ももう終わりだ。
大きい門の前には二人の兵士が待機している。
待ち伏せしていたというよりかは元々いた門番だ。
「待って。このままじゃ普通に捕まるじゃん」
「大丈夫だって。信じろ」
「信じられないから言ってるのに」
確かにこのまま行けば閉まっている門に阻まれ捕まる。
だが門は一つでも出入り口は一つではない。
大きい門の隣にもう一つの小さい片開き扉があるのは把握済みだ。
それはただの扉なので簡単に突破できる。
「すぐ後ろについてこいよ!」
手を放しトップスピードで扉へ向かう。
門番も暗闇ので見えないのか反応が遅れる。
ロイはここだという距離で飛んで、扉に向かってそのままキックした。
扉は木でできているため勢いのあるロイのキックにより粉砕され跡形もなくなってしまった。
その後ろにぴったりとついて走るアリアス。
ロイも着地を決め、再び手を取り逃げる。
二人は久しぶりに町の外へと出た。
町の外壁が完全に見えなくなった辺りで二人は足を止めた。
「はぁ…はぁ…なんとか逃げ切ったみたいだね」
「ああ…俺の完全勝利……」
ロイは疲れ果てて地面に寝転んだ。
「それで、これからのご予定は?」
天を見上げながら答える。
「腹減った~」
「答えになってない」
「飯食ったら考える」
しかしさっきから地面が揺れている気がする。
地面と近いため感じやすいだけか。
「ねえ、あれ……」
アリアスが指を指す方向には人間を遥かに超す大きさのモンスターであった。




