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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第一章
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十八話 帝国内部で起こる亀裂

 その男は非常に憤りを感じていた。

 それは彼の歩き方に顕著に表れていた。

 綺麗に拭かれ、自分の姿が反射する床を早歩きで行く。

 自分の考えとは真逆の事が、自分を差し置いて進んでいる。

 言っても無駄だとわかっているが、何かしなければ収まらない。


「おやぁ~?これはこれは最年少で議会入りが確約されているファニクス・フェルナーツさんじゃないですかぁ?」

「しかしいくらあなたでもここを通すなと」

「うるさい。邪魔だ、どけ!」


 バカにした態度。

 扉を挟むように立っている二人の門番は、同じ帝国の人間だとしても敵だ。


「わかりましたよ。はい、どうぞ」


 一人が扉を開ける。

 その男よりも大きい扉は中が重要な場所である事を示唆しているようだ。

 礼も言わず急いで入る。

 さらに奥へと進むさきほど途中言われた事を思い出す。

 何が最年少で議会入りだ。

 俺はそんなところで満足するような人間ではない。

 あいつらは知らないだろうが、議会はお飾りだ。

 実際ファニクスが言っている事は正しい。

 議会の上、最高の決定権を持つ十三史院というものがある。

 ヴァルフガング帝国として建国された時からある裏の支配者だ。

 その存在は隠され続け、そのメンバーと会える者は王族だけだという。

 またメンバーの中には、それが作られてからずっと生きて帝国に関わってきている者もいる、眉唾の噂もある。

 とにかく自分はそこに入らなければいけない。

 だから議会などでは全く満足できないのだ。

 行き止まりまで着いたところで、その歩みは止まった。


「なぜです!?なぜあのような事を?」

「おい、陛下の御前で無礼だぞ。これだから田舎者は」

「聞こえてしまいますよ、田舎者に」


 こちらを嘲笑する年寄りの使えないゴミ共。


「なぜか。貴様も議会入りするからには使えると思うたがはずれか」

「私の答えてください。陛下、シェヴァリエ・ヴァルフガング・ベルナール陛下」


 座っているだけでこの圧倒的威圧感。

 見た者を怯えさせ、聞いた者を震え上がらせる帝国の全ての支配者。

 何度か会ったが慣れない緊張感は、喉を締め付けられるより苦しい。

 だが言わなくてはならない。


「あれは必要だ。貴様はこれからを見据えて話しているのか」

「はい、その上で話しているつもりです」

「それはいつだ」


 一瞬言葉に詰まったが、出せなくなったらこの話では敗北した事になる。

 必死に言葉をひねり出した。


「十……年後、二十年後です」

「だから貴様は甘いのだ。俺は百年、二百年先を見据えている」


 こんな論は後出しが絶対に勝つ。

 卑怯というか、もはや幼稚な論だ。

 しかしそれに引っかかったのは自分で、あの状況の時は年数を出さなければいけない、そう思い込まされた。

 間違いなく陛下の勝ちだ。

 考えに囚われた今の自分ほど、相手にしやすい奴はいないだろう。


「それでは貴様が行くか」

「えっ?」

「貴様が行ってその手腕で変えてみろ。さすればわかるだろう。この戦いの意味が」

「よろしいのですか、陛下」


 どよめく老人。

 若造にこんなチャンスを取られては焦っているのだ。


「俺の決定に何か意義でもあるのか」

「い、いえ、そ、そんな事は」


 すぐに萎縮、そして下を見て顔を上げない。


「ファニクス、貴様のこの戦いの勝利条件はだが、兵士五万、その二割五分、つまり一万二千五百以下に死傷者を抑えて、尚且つ勝利だ」


 それはあまりに無茶、高い条件だ。

 だが今のファニクスにそれを跳ね返せる力はない。


「……わかりました。十二月の十一日、陛下にその条件の勝利を御覧に入れましょう」

「ふっ、行け」

「はっ」


 もっと情報を持ってここに来ていれば変わったかもしれないと悔やむ。

 この後、後ろ指を指されるだろう。

 議会でも立場が悪くなる。

 どうするのが正解だったか。

 どう答えるのが正解だったか。

 それを考えている時間など残されてはいなかった。


 急とはいえ指揮を任されたのだ。

 今回の戦いを確認しておこう。

 場所は帝国最大の敵対国家であるオルトルート連邦の東にあるローラント平原。

 こちらは五万の兵士、対するオルトルート側は四万数で、こちらが有利だ。

 兵士の内訳は、歩兵四万二千、騎兵四千、弓兵二千、魔道兵千、その他補給、治療に携わる者千人だ。

 だが距離が遠いので兵の士気がカギとなりそうだ。

 そこをどう埋めるかも試されているのか。

 考えなければならないことが山ほどある。

 確か戦争についても細かい規約のようなものがあったはず。

 それを見るためファニクスは資料室へと向かった。

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