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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第一章
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十七話 招集

 それからは大変だった。

 酒が入り、大声で喚いたり、やたらと他の人に絡むラーシャをずっとなだめていた。

 そして疲れか、酒の所為かはわからないが、眠ったラーシャを部屋へと運んだ。


「いやぁ……何かいろいろ凄かったね」

「まさかだったな」


 アルコールに強いとまでは思わなかったが、ラーシャほどの人がああなるとは意外だ。

 飲みすぎには注意。


「はっは、ロイとアリアスじゃないか。二人揃ってデートかい。羨ましいなあ、おい!」


 クラインがおっさん特有の絡みをしてきた。

 正直この手のものは面倒くさい以外の何物でもない。


「そーだな。おっさんも飲むのもたいがいにしとけよ」

「この俺がこれぽっちの酒なんかに負けるかよ」


 こういう事を言う奴に限って道端で倒れてそのまま寝たりする。


「それより今から少しいいか」

「構わない、な俺は。アリアスは?」

「ええ、私も大丈夫」

「じゃあきてくれ」


 その話を切り出した瞬間、クラインの顔が酔っ払いのおっさんからここのリーダーに変わった気がした。

 ロイとアリアスもそれを感じ取り、思い雰囲気が漂う。


 案内されたのは小さな作戦室といった感じの部屋で、書類、ボード、分厚い本などが机の上に乱雑に置かれている。

 整理ができないダメな奴を具現化したような場所だ。


「で、さっそく話の本題に行くのもあれだから」

「いや、すぐ入れ。酔ってるおっさんの余興なんて見れたもんじゃない」

「おっさんじゃねぇ。三十代だぞ。お兄さんだろ」


 実にどうでもいい。

 結局すぐに本題に入れなかったところをみると、今回はクラインの勝ちだ。

 で、これは何の勝負だ?


「まあ、本題に入るが、近々帝国と戦いがある」

「おお!で、俺たちがここに呼ばれたって事は!」


 待ってましたと言わんばかりに目を輝かせるロイ。


「ああ、治療班だ」


 ……は?


「え?前線とかじゃないの?」

「そうだ。確かにお前はそこらの奴よりちょっとは強いかもしれん。だが、その魔遺物ツァオベライユーバーレストを帝国に知られるわけにはいかんのだ」

「何か納得いかない」

「じゃあちゃんとした反論ができたら聞いてやるが?」


 できないから、何か、を付けてるのにわかんないのか、このおっさん。


「でも私たち防衛学専攻で魔法治療学は取ってないけど……」

「そーだそーだ」

「いや、お前らの目的は治療がメインでない。戦場を見る、体験する、理解する事がメインだ。治療はあくまでも建前としてだ」


 こうやって新人を育成していくのか。

 初めてリーダー感のある発言をされた。


「もちろん、ラーシャも一緒だ。その方がいいだろ?」

「ああ、そうだな」


 融通の利く男だ。

 それがここを任されている理由の一つでもあると思えた。


「で、詳しくはいつなんだ」

「日にちはデファンネの11だ」

「で、でふぁんね?」

「ロイ、ここは帝国と違うから月の呼び方も違うの。ファンネは帝国でいう十二月ね」


 わかりにくい事するなぁ。


「つまり来月ね」

「ああ、それまで気持ちの面でもしっかりと準備しておいてくれよ。話は以上だ」

「わかったわ。行こっか」

「お、おう」


 話の終盤でおいていかれたし、まだ行くって返事出してないけど別にいいか。

 その部屋を出て自室へと戻る途中アリアスに聞いてみた。


「因みに今月の言い方は?」

「う~ん、ベスタ?デオネル?」

「わかんないのかよ」

「仕方ないでしょ!最後に見たの学校にいた時なんだから!」


 その後部屋に着くまで罵倒の嵐だった。


 部屋の扉を開けると、そこにはこちらを鋭い目つきで睨むクロエがいた。

 魔遺物ツァオベライユーバーレストは準備の時邪魔になると思いここに置いていたのだ。


「ずっと手放さないでっていったよね?」

「いや、そうだけど」


 ここでも文句と罵倒の嵐か。

 だがこれもこちら側への愛情だと思うとほっこりする。


「ちょっと人の話を聞いてるのっ!?」


 これから毎晩退屈しないで済みそうだ。

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