十六話 涙と夜
ここは隠れ家に行くために入った居酒屋の屋上。
空一面に散りばめられた星を見上げて、涙をこぼさないようにしていた。
アリアスはそれを隠そうとしてわざわざ屋上へとやってきたのだ。
ロイのかけた声に反応して、すぐ目をこすり振り返った。
「ん?何?」
笑っているが目の周りが赤い。
ずっと泣いていたに違いない。
「どうしたんだ、こんなとこで。もう始まってるぞ」
ロイは相手の事を察する力があまりない。
それはロイ自身もわかっている。
だから前に決めたのだ。
どんな時も一番自分らしくすると。
「うん。そうだね。早く行かないと」
声が震えている。
すぐにわかるほど。
「あの調子じゃまだまだ続きそうだ。少し話してから行くか」
アリアスが頷いたのを確認してから隣に立つ。
柵に手をついて言った。
「それにしても星って綺麗だなぁ。こんなふうに見るのも久しぶりだな」
「もう何年だろうね、あれから」
子供の時にもこうやって二人で見たことがある。
その時泣いてたのは俺だったなぁ、と思い出した。
「あのね……」
徐々にだが声の震えもなくなってきている。
「私ね、不安だったんだ。両親の事とか、これからの事とか。それを考えた時ちょっと苦しくなっちゃって」
帝国においてきてしまったアリアスの両親は、ロイもよく知っている。
優しくて暖かくて、自分を本当の息子みたいに扱ってくれた人だ。
その両親からしたら突然自分の娘がいなくなったのだ。
アリアスはそれを考えて苦しくなっていたのだろう。
しかし道中もここに来てからもそんな素振りは一切見せなかった。
周りに迷惑をかけまいと、ひたすら胸の内に押し込んでいた。
辛く、苦しくなっていくのは当然。
「そっか。でも俺だって不安だったよ。何とかなるとか言ってたけどさ」
「あれ本気だと思ってた」
「ひっでぇ。俺はナイーブなんだぞ」
やっとアリアスが本当の意味で笑った。
やっぱり泣いてるより笑っている時の方がいい。
「まあ、あんまりそういう事は一人で抱え込むなよ。辛くなったら逃げればいいし、俺ぶつければいいし」
「うん。ありがとうね」
こうやって今までお互いを支えてきたんだ。
これからも変わらずそうしていけばいい。
「あ、流れ星」
「ほんとだ。何願い事した?」
「う~ん、世界平和?」
「夢でかくない?俺関連じゃないの?」
ちょっとがっかり。
「したよ。でも今は言わない。叶ったら言おうかな」
「二つもしたのか」
欲張りさんなこった。
「うん。ロイの分使わせてもらった」
「まじかよ。それじゃあ俺の願い叶わないじゃん」
「何願ったの?」
「えっと、世界平和?」
別に自分の分いらなかったな。
もちろん違うけど、言いにくいよなぁ。
「さ、そろそろ戻ろっか」
「そうだな。ラーシャおいてきちゃったからな」
アリアスはとととっ、と階段の方へと走って振り返って言った。
「早くしないとおいてくぞっ」
その瞳に涙はもうなかった。
「わかったよ」
ロイもアリアスの元へと駆け寄った。
地下へと戻った二人を待ち受けていたのは、衝撃的なものだった。
「あ~、アリアスさんにロイさん。まってましたよ~」
いたのは顔を真っ赤に染め、手には似合わぬジョッキを持っているラーシャの姿だった。
「さ~さ~、なにしてるんですか~。こっちにきてのみましょ~よ~」
あれだ。
完全に酒に飲まれている。




