十五話 反乱軍の宴
「……ねえ、ちょっとあれ何?」
アリアスは呆気に取られた顔をしている。
「どれですか?」
ラーシャが聞き返す。
「ほら、あれ」
指した先にはさっきまで険悪な雰囲気のロイとクラインが、仲良く肩を組んで歩いている。
その二人は見るからに上機嫌だ。
「な、何でしょう。もしかして今雨降ってます?」
「地下だからわかんないけどあれは絶対何かあった」
こちらの二人は首をかしげる。
「ああ、アリアスにラーシャじゃねぇか!」
見つけたのはロイだった。
肩を組んだまま寄ってくる様子は、壁が迫ってくるみたいだ。
「どうしたの?そんな仲良くなって」
「おう、これか。実はな……」
ロイは食堂で呼び出されてからこのような状況に至った理由をハイテンションで説明した。
「そ、そう。よかったわね……」
アリアスは引き気味だ。
「でも険悪な雰囲気が解消されて安心しました」
ラーシャは心配してくれていたようだ。
「でよ。今夜俺たちの宴を開いてくれるらしくて今からその手伝いだよ」
「そうなの。頑張ってね」
「何言ってんだ。お前らも行くぞ!」
「はあ!?」
強引に誘うどころか、強制参加だ。
はっは、と笑うクライン。
「ちょっと勝手に決めないでよ」
「どーせ暇だろ」
言い返せなかったアリアスは悔しそうだ。
「まあ、アリアスさん。手伝いましょう。これからお世話になるんですし」
さすがは常識人のラーシャ。
考えも至極正しい。
その言葉にアリアスも負けたようで、不承の返事をした。
「よーし!今から行くぞー!」
ロイはすでに居酒屋をハシゴかの如く、大声で言った。
日はすっかり沈み、地上では夜の帳が下りていた。
しかし隠れ家の地下では昼よりもうるさくどんちゃん騒ぎが起こっていた。
数えきれない大人数ともなればなおさらだ。
酒が入り喧嘩や物が飛び交う食堂はさながら小さな戦場といえる。
新人の歓迎の気持ちを持っている者は、この中には誰一人としていない。
あるのは日頃の疲れ、鬱憤を晴らすために暴れまわっている者の姿だけだ。
それを端で突っ立って見てる事で精一杯だ。
「私たちはここでやっていけるのでしょうか……」
ラーシャが不安になるのも無理はない。
こんな下品でばかばっかりが集まっている場所を見る機会がなかっただろう。
「でもたまにはこういうのも悪くないだろ。どうせここで暮らすなら楽しまないとな」
「ええ、そうですね」
ラーシャは納得したように微笑んだ。
それにしても今気付いたがアリアスがいない。
準備をするのに一旦ばらばらになったがそれから会っていない。
「アリアス知らねーか」
「いえ、そういえば私も見ていませんねぇ」
「そうか。じゃあちょっと探しに行ってくるわ」
「お気を付けて」
ラーシャをここに一人にしておくのも気が引けるが、それより心配なのはアリアスの方だ。
多分無事だろうけど姿が見えないと心配になってしまう。
走り気味で探そう。
隠れ家には大きすぎて大変だが、ポイントを絞れば比較的楽に探せそうだ。
アリアスの部屋やラーシャの部屋などをしらみつぶしに探していく。
だがどこも外れだ。
人の影すら見えない。
皆宴で盛り上がっているのだろう。
自分の部屋にいたセシリアにも、もしかしたらと思い尋ねてみた。
やはり答えはロイが期待したものではなかった。
礼を言って扉を閉じた。
ここまでいないとなると地下にはいないか。
「だとすればあそこだな」
思いついた場所へ走り出す。
ロイの予想はぴたりと当たった。
「こんなとこにいたのか」
そこには寒い中、夜空を見上げ、ただ泣いているアリアスがいた。




