十四話 格の違い
始まる前は余裕だと思っていたが、今はクラインを見る事すら怖い。
圧倒的差だ。
踏んだ場数、戦いの考え方、積んだ経験、臆する事ない度胸、寸分の狂いなく鮮麗された動き、どれにおいても圧倒的に負けている。
武器なんか関係ない。
もはや自分が負ける、負けている事を嫌でも悟らざるを得なかった。
「どうした?もう降参か?」
くっそ。
降参するしかないか。
「あんた、自分から負けって認めるつもり?」
「え?」
そこには今まで見せた事がない怒りに満ちた顔をするクロエがいた。
「自分から負けましたって。あんたはあたしの主なのよ!あんたの負けはあたしの負けでもあるの!それなのに負けを認めるなんて許さないわ!」
いつになく真剣な表情。
その言葉がロイの戦意を復活させた。
確かにそうだ。
この戦いは自分一人のものではない。
クロエと一緒に戦っているんだ。
「すまなかった。もう大丈夫だ」
「何が大丈夫よ。まったく、ほらあの筋肉バカを倒すわよ!」
「ああ!」
もはや賭けなどどうでもいい。
「待たせたな、クライン。ケリを着けようじゃねえか!」
「ふははは、いいぜ、お前!そうこねえと!」
ふらつく足は立っているだけで限界。
定まらない視点は見えるものを二重、三重にする。
それでも倒すべき敵だけははっきりと見えている。
「行くぞ!」
吠えたロイの声は部屋中に響き渡る。
「おう!」
それに呼応して走り出すクライン。
状況は最初と同じでクラインとの距離は離れている。
むやみに撃っっても避けられるだけ。
「これど~すんの~」
「……ってできるか?」
「へぇ~、そうきたのね。できるわ」
「それで頼む」
ロイは魔遺物をクラインに向けた。
またいつもの色の魔法陣が浮かび、弾が発射された。
「おい、同じ攻撃なんて当たるわけないだろっ!二倍速!」
きた!
同じ攻撃には同じ魔法で避けてくる予想は当たった。
クラインはサイドに避ける。
だが弾は真っ直ぐに飛ばず、クラインをめがけてカーブを描いた。
「何!?追尾!?」
「まだだ!焼き尽くす焔!」
ここで全力で畳み掛け一気に決める。
だが渾身の魔法の中から現れたのは、無傷のクラインだった。
「いい攻撃だったがな。お終いだ!」
その言葉を聞いた瞬間、天井がうっすらと見えた。
「っは!」
「おお、気が付いたか」
隣にはクラインが座っている。
「ほら。これを飲め」
手渡されたのは水の入ったコップだった。
一気に飲み干してからクラインに質問した。
「あれからどうなったんだ?」
「お前は吹っ飛んでそのまま気を失った」
それを聞いて確信した。
「俺、負けたんだな」
「……そういう事になる。だが魔力も残り少なく、それに加え物理的ダメージをくらってたとなるとよくやった方だろう」
それでも力の差では遠く及ばなかった事は隠し切れない。
だがなぜか心は澄み渡っているようだ。
こんな戦いは初めてだった。
学校だってここまで本気じゃない。
今回はいろいろと勉強になった。
「しかしお前が俺をここまで楽しませる奴だとは思わなかったぜ」
「そりゃどーも」
こっちは本気なのにクラインは楽しんでたのか。
その時点で力量が浮き彫りだと思った。
「さて、これで忠実なる犬ができたな」
「で、最初に何するんだ?」
「もちろん、お前らの歓迎会の準備だ」
それなら喜んで手伝わせてもらおう。




