百四十四話 アリアス救出作戦 陸
「雷三刀」
ユスティンの背後に、三つの刀が現れる。
どれも煌いて、まるで後光を彷彿とさせるようだ。
「これで君たちを切り裂きでもしよう」
「お前武器は使わなかったんじゃないのかっ！？」
「魔法で作った武器は寧ろ普通の魔法よりもオシャレなんだ」
「違いがわからんっ！」
二人のやり取りを一歩引いて見守るフランカ。
だが集中は切らさない。
いつ刃がこちらに向いても対処できるようにしている。
「そうか。だったら」
と、クラインも唱える。
「二倍速」
首を鳴らし、異形の槍の持ち主は警告する。
「その目ぇ閉じんなよ？」
フランカは目で追うのがやっとだった。
隣にいた男がもうユスティンの前まで行っていた。
動作によって起こされた風がフランカに届くころには戦闘はすでに始まっていた。
クラインの速さが、自分をも凌駕することに驚きを隠せなかった。
しかし驚いた理由はそれだけでにはとどまらなかった。
なんとそのスピードを有したクラインと互角に渡り合っている男の姿があった。
三つの刀を巧みに操り、ハルバードでの攻撃をいとも簡単にはねのけていく。
「はははっ、これぐらい目を閉じていても楽勝だよ！」
連続でバックステップをしつつ、煌く剣で防御する。
斧頭で叩き切る、穂先で突く、などさまざまな方法で攻撃を試みるが、どれもユスティンの剣の前に沈黙する。
重量級の武器とは思えないスピードでも簡単には突破できない。
「ほら、それじゃ僕まで届かな……ん？」
「忘れるんじゃないわよ、私を！」
声が飛んできた方向はユスティンの背後だった。
「まさかッ！忘れたくても忘れられないよ」
二本の剣をクロスさせてハルバードを受けとめ、残ったもう一つでフランカのナイフを弾く。
「君みたいな性根の腐った獣人族はねッ！」
「今なんつった？」
ナイフを持つ手とは別の手で作った握りこぶしを震えさせた。
「おや、ちょっと言っただけで怒ってしまうのかい？これだから獣人族は嫌いなんだよ」
「もう一回でも言ってみろ。地獄行きだ」
フランカは獣人族というだけで侮蔑して、嘲り、差別することがなによりも嫌いであった。
少しでも言われると、たちまち我を忘れてしまう。
「うあぁぁぁあぁああああ！！！！」
雄叫びを上げると、尻尾の毛を逆立て、戦意をむき出しにする。
「おい、フランカ！やめろ！」
クラインの声も届かない。
ただ本能のままに動くだけだ。
「くはははっ！やっと本性を現したか。それでこそだ」
額に手を当て、高らかに笑う。
クラインの魔法がかかった状態と並ぶぐらいの速さで、フランカは攻撃を仕掛ける。
そこに策というものはなく、狩りをする獣にしか見えない。
「くっそ」
それを見ていたクラインはそう呟いた。
下手に攻撃を仕掛けようものなら、こちらにも被害が及ぶかもしれないと考えたからだ。
だがだおうにかしようと考えている間にも、フランカの猛攻は続く。
ナイフでの素早い攻撃かと思えば、今度は鋭い牙で噛みつこうとする。
それでもユスティンに攻撃が通る気配は感じられない。
「おいおい、僕はそんな知能の低い戦い方は好まないんだよ」
笑っていたかと思えば、急にあきれ顔でつまらなさそうに愚痴をこぼす。
「お前がそうさせたんだろうが」
「もうちょっとマシかと思ったんだけどねぇ」
飄々と答えるユスティン。
その口調には余裕を感じさせるだけのゆとりがあった。
とても猛獣の攻撃を受けている最中とは思えない。
身のこなしにしても、魔法の操作も一流なんてレベルではない。
「ぐおぉぉぉぉおぉおぉおお！！！」
吠えたのはフランカではなかった。
三人とは離れた場所で戦っていた、クラインが作り出した龍だ。
「ほう、どうやら君の魔法の方が僕のよりも弱かったみたいだね」
砕け散り、舞い上がる砂埃の向こうに、悪魔の笑い声が垣間見えた。
