百三十八話 エリクフォルトの砦攻防戦 拾
難関はまだあった。
黒で統一された砦の壁と戦場中央のちょうど中間にもう一つの防壁が作られていた。
魔法兵団だ。
深い紫のローブを全員が纏って、同じ杖を使い、動きも狂いがない。
違うのは杖の頭についている玉の色のみだ。
赤、青、黄色とそれぞれの得意魔法を表している。
この防壁を迂回するには無防備をさらすこととなる。
かといって足を止めることもできない。
「どうする!?」
たまらず後ろの仲間に知恵を借りる。
その間にも刻一刻と衝突の時間は迫っている。
もちろんロイも考えていた。
突破法はないかと模索するたびについいつも頼ってきた人物の名がよぎる。
ここにアリアスがいてくれれば、高火力の魔法で逆転の一発をくらわすことができただろう。
でなくてもきっと魔法でどうにかできたに違いないと。
ラーシャやセシリアも決して魔法が使えないわけではない。
むしろ一対一では帝国の魔法兵団の者でも足元にも及ばないはずだ。
だがそれでもアリアスと比べてしまうと、霞むぐらいにアリアスが群を抜いている。
だから頼りたくなり、それに答えられると、次も簡単に頼ってしまうようになるのだ。
「私に任せてください!」
ロイがはっとして、前方を見る。
声を張ったのはラーシャだった。
向かってくる敵の存在に気付いた魔法兵団が狙いを定め、口々に唱える。
「竜の火炎!」
「水波!」
どれもそこまでレベルの高くない魔法だ。
しかしそれらが一斉に放たれると話は別になる。
ラーシャは対抗するためにもっと高レベルの魔法を放つ。
「魔法使いの鏡」
頭上に作り出されたそれは、太陽の光を受け、煌びやかに輝く。
金で回りを修飾された楕円の鏡が魔法時兵団が放った魔法を映し出す。
吸い込まれるように表面に当たると、進行方向を百八十度変え、撃った本人の元へと帰っていく。
「う、うあぁぁ!」
「くっそぉ!」
動揺を隠せない魔法兵団。
中には対となる魔法で相殺を試みた頭の回転が早い者もいた。
だが検討むなしく、反対の魔法をぶつけても思った成果は得られなかった。
爆発とともに統一されていた壁に穴が開く。
「もちょっとよ!頑張って!」
戦闘を走るフランカの励ましの言葉が全員の士気を高めた。
壁を突破し、砦の入り口目前まで来ている。
何メートルもの高さがある入り口は、鉄格子で侵入ができなくなっている。
「どうやって入るの?」
「えぇと、考えてる」
「プランなし!?」
「ああもう、ぶっ壊せばいいだろ!?」
そう言ってロイは、全力で魔法を入り口に向かい放つ。
「焼き尽くす焔!」
焔は鉄格子を包み込む。
数秒の時を経て、静まった焔の跡を見てみると、溶けた鉄格子がぐにゃりと曲がっている。
ロイの魔法がどれだけ高温だったかを物語っていた。
「おっしゃあ!」
高らかに喜びの声を上げるロイをしり目に、フランカが小さく愚痴をこぼす。
「ごり押しじゃない……」
「なんか言ったか?」
「いーえ、なにも」
ついに砦の内部へと侵入に成功した。
その様子を砦の上に設置された物見やぐらから見物していた。
組んでいた腕を外し、振り返る。
「まったく、飽きもせずに。楽しませてくれる」
階段を下りていくと、ちょうど部下が上ってきた。
「ああ、ファニクスさん。そろそろ……」
語尾をにごし、察してもらおうとする。
ファニクスも当然それに気づき、すれ違いざまに部下であるアスレットの肩をたたく。
「来る頃だとは思っていた。用意はしているな」
「はい。もちろん」
それだけ聞ければ十分だと、不敵な笑みを浮かべてファニクスは中へと入っていった。




