百三十七話 エリクフォルトの砦攻防戦 玖
目の前に広がる光景に四人は緊張の面持ちで、今一度覚悟を決める。
唯一砦へと通ずる道は、幅も広く元雄氏も非常に良い。
途中に戦がなければただの平地と大差ない。
「たいへんそうね」
他人事みたく言うフランカ。
「先頭なんだからしっかり頼むぜ」
戦場を駆けるのは、崖から崖への綱渡りぐらいに難しいだろう。
ほんの一瞬でも気が緩めば即刻落下――死体に早変わりだ。
ではなぜフランカが先頭であるか。
それは狐人としての能力をかわれたからである。
足の速さはもちろん、人間にはない俊敏性、また大きな耳が危険をいち早く察知できることから選ばれた。
フランカに導いてもらうことでちょっとでも安全に移動しようという考えだ。
「私はいつも通りやるだけだけど、後ろまで心配できないわよ?」
屈伸運動を三人を見る。
彼女の言うように、この作戦の穴は後続である。
フランカにどれだけ張り付いて行動できるかが生死を分ける。
走る姿は目につきやすい。
道は困難を極める。
「大丈夫なようにする。俺が最後だから」
ロイの言葉通り、先頭にフランカ、続いてラーシャ、セシリア、そしてロイの順に戦場を行く。
上空から見れば蛇が移動しているように見えるだろう。
先頭のフランカに必死についていく三人。
すでに呼吸も乱れ、脈も速くなっている。
しかしゴールはまだまだ先だ。
左に右に、蛇行して進む列は、できるだけ敵がいない方向を選ぶ。
進むほどに敵の数は多くなり、そして中央へ来た辺りで難所が現れた。
こちらが押されているためにできた敵のかたまりだ。
猪人が少なくとも十人。
避けては通れない、かといって止まることも許されない先頭は素早く頭の中でルートを作る。
より安全、より早くゴールへと辿り着ける道を。
仲間と話す余裕すらない状況で、フランカは叫んだ。
「目を閉じて!」
無理難題を言っているのもわかっている。
返答も待っている時間はなかった。
周りの敵兵も斧や槍での攻撃モーションに入っている。
それでも打開策としてはこれ以外思いつかなかった。
「承和色の閃光!」
唱える終わるとほぼ同時にそれは起こった。
体が思わずのけ反ってしまうほどの激しい光がその場を包み込んだ。
目を閉じていても瞼を通り越して光が伝わってくるほどの強力な光が。
予期せぬ魔法に蛇が通った後も猪人たちは目を抑えている。
「何が起こったんだ!?」
最後尾のロイが先頭に届くほどの大声で尋ねた。
「ちょっとした小細工よ!まさか役に立つときがまたこようとはね」
「え?最後の方よく聞こえない!」
風の音でフランカの声はかき消された。
「なんにもないわ!」
濁してからまた目の前を見る。
さっきに比べればゴールはすぐそこだ。
「なんだあいつ」
ロイはピンチを脱せられたことよりもフランカの続きが気になるばかりであった。
だがそればかりも気にしていられない。
中央を少しばかり行ったところからセシリアの様子が変なのだ。
ふらふらになりながら走っているのは、後ろから見ているロイが一番知っていた。
「おい、セシリ……ッ!」
上がらなくなった足が石に当たり、セシリアは大きくバランスを崩したのだ。
「間に合えッ!」
体力が削られている中での全力疾走。
伸ばした手でセシリアを引き上げる。
「大丈夫?」
気が付けば手を取り並走していた。
「……ありがと」
「どうしたしまして。そしてちょっと失礼」
と言って握っている手とは逆の手で、セシリアのひざ裏を救いあげた。
「……!?」
また気づけば今度はロイに抱えあげられえていた。




