十三話 お遊び
クラインはこちらをずっと見ている。
戦いをふっかけられてどうしたものかと困り果てるロイ。
「ねえ。あんた戦うの?」
「いやぁ。どうしようか」
「別にだいじょーぶよ。あたしの力で非殺傷にする事もできるから」
戦ってみるのも悪くないか。
「その武器使ってもいいぜ」
「そっちは生身で大丈夫か」
「へっ、武器なんざ俺には必要ねえ。この肉体が最強の武器だからなぁ!」
クラインの言う通り筋骨隆々で力こぶの大きさが並ではない。
だがこっちは遠距離武器だ。
近距離のクラインは絶対的に不利だ。
「そうだなあ。ただ戦うのも面白くねえ。何か賭けるか」
「何を賭ける」
「お前が勝ったら俺のリーダーの座をくれてやる」
「本当か!?」
とんでもないものを賭けてきた。
ここで勝てば実質自分の軍を持てる。
「俺が勝ったら……お前は言いなりの犬だ」
「上等だ。始めようぜ」
負ける気がしない。
負けるわけがない。
相手は凡庸な肉弾戦。
それに対してこっちは離れて戦えば一方的な展開を披露できる。
勝負にならないが一応昨日の礼もある。
全力でぶっ倒す。
「それじゃあ、始めるぜ」
「ああ」
クラインはかなり距離を取っている。
いつの間にそこまで言ったのかは気が付かなかったが、自分から離れてくれるとは好都合だ。
「それでは……始めぇ!」
クラインの合図と共に、一直線で向かって走ってくる。
あまりに無策だ。
クラインもこれの事は知っているはずなのに。
ロイは距離をとりつつ魔遺物をクラインに向けた。
「照準合わすのあたしがやんの~?」
「頼むからやってくれ。勝ったら望む事何でもするから」
「ホントに?まあ、いいわ。前の時と同じでいい?」
「助かる」
これを一発当てて戦いはお終いだ。
青い魔法陣が浮かび上がる。
続いて灰色の弾がクラインに向かって放たれた。
「ゆっくり眠りな!」
その時ロイにはクラインは一瞬笑ったように見えた。
「二倍速」
そう唱えた瞬間、クラインの動きは見違えた。
目では追えないほど俊敏になったのだ。
そしていとも簡単に弾を躱してしまった。
「マジかよ!?」
クラインのそのスピードは衰える事無く向かってくる。
「おい!次撃つぞ!」
「そう喚かないでよ。……ふっふん。躱されて当然か。……はいもう撃てるわよ」
「わかった!」
そこに余裕は存在しなかった。
焦りと畏怖の板挟みによりさっきまでの威勢、楽観は消え失せていた。
次弾もするりと躱された。
気付けばクラインが得意とする近距離、それも至近まで来ていた。
このままでは確実に負ける。
これで殴られでもしたら勝負は終わる。
ロイは咄嗟に唱えた。
「くっ、焔壁!」
ロイとクラインとの間を焔が遮った。
一時しのぎににしかならない事などわかっている。
今は距離をとる時間が少しでも欲しい。
「いい判断だがそんなんじゃだめだぜ!」
壁の横側を回って向かってくる。
その速さは未だに健在だった。
「さあ、ぶっ飛べ!」
クラインの拳は的確にロイの腹を捉えた。
見事なまでに一発をくらったロイは宙を舞った。
そして地面に叩きつけられた。
「これは終わったね~」
「ま、だ、だ……。おわ、ちゃ、ねぇ……」
立ち上がったロイではあったが、もはやそこに勝てる要素などなかった。




