百三十六話 エリクフォルトの砦攻防戦 捌
まだか弱い日差しが注ぐころ、それは打ち上げられた。
両軍から二つの煙が、下から上へと昇っていく。
花火だ。
地中のミミズですら聞こえるぐらいの爆音をもって開始の合図とする。
相対していた二つの軍勢が動き出す。
我先にと吠えながら相手陣地に駆けていく。
エリクフォルトの砦攻略最終日の始まりである。
両者交わったとき、そこは地獄と化した。
完全なる乱戦になり、どこから攻撃が飛んでくるかわからない。
帝国軍の四割弱は猪人だ。
一方こちらはほとんどが人間であり、体格、腕力など、戦で必要となりうる力では負け越している。
それ故今まで苦戦を強いられてきた。
実際の数よりも相手軍が多く見えるのはその所為でもある。
しかし屈せずに立ち向かっていく彼らのおかげで、どうにかこの日を迎えられた。
「戻ったわ」
「ごくろーさん」
戦場である砦前から離れた山際で会話がなされる。
「やっぱり前に使ったルートは崩されてて使えそうにないわ」
頭に狐の耳がある少女は、端的にまとめて報告した。
「まあ、だろうと思ってたけど、この道しかないか」
予想はしていても、やはり気落ちは隠せない。
砦の中に安全かつ迅速に侵入する方法として、前回イェーリンが先導して行った通路を使おうと考えたのだが、相手も甘くなかった。
「爆弾かなんかで木っ端微塵よ」
「それはそれは」
大胆に破壊するもんだ、とロイは思う。
侵入を許した苛立ちと一緒に葬ったのだろうか。
膝を曲げ地面に手をつき、俯くロイに言葉をかける。
「でも迷いがなくなったんじゃない?」
明るい声でフランカは慰めた。
健気で心に響く暖かい声だ。
「そうだな。道は一つある。それだけで十分だ」
「そうそう。じゃ、戻って最後の確認でもしよ」
野営地へと二人は走る。
テントがいくつか見えてくると、その先頭にはラーシャとセシリアが待っていた。
「どうでした?」
「いや、だめだった」
「ダメでもともとですから。では言っていたように……」
言いかけてラーシャは止めた。
その先はあのルートとは比べ物にならないほどに危険であるから。
「でもしょうがない」
暗くなりかける雰囲気に気づき、ロイは声を張って言う。
「助けに行くときは正面からだろ?小細工なんて必要ない」
要領を得ない発言に思わずフランカが笑ってしまう。
「付き合わされるこっちの身にもなってよ」
よほどおかしかったのか、目じりに涙をためて笑いを堪えつつ言った。
「ロイさんは騎士様ですものね」
便乗してラーシャも微笑む。
「ロイ様……騎士様……」
一人だけ流れを理解していないのか、頬を赤らめていた。
一通り笑うと、ラーシャが手をたたいて、視線を自分へ向ける。
「行きましょう。そして、アリアス助けましょう」
それに一人ずつ返事していく。
「ああ、もちろん」
「そうね、疎に人にも会ってみたいし」
「私……頑張ります」
各々もう一度、心に誓う。
今日、五人揃って帰ると。
「あれ?」
と、空気に合わない拍子抜けするような声でロイが疑問を投げる。
「ラーシャとセシリアって医療班じゃなかったっけ?」
驚いてラーシャはフランカに確認する。
「昨日言いませんでしたか?クラインさんからの許可が出たので同行すると」
「言った、言ってた。あんたが忘れてるの」
まだなぜか訝し気げな表情のロイ。
「もうせっかくいい雰囲気だったのに台無しじゃない!」
フランカのヒステリックな叫びは戦場でのそれと比べればまだかわいいものであった。




