百三十二話 エリクフォルトの砦攻防戦 肆
ネーフィストを一体倒し、これでまた一対一。
しかしまたあの魔法を使ってくる可能性があり、油断できない状況だ。
「さて、また分身か?」
まともに答えてくれるとは思わないが、聞いてみた。
すると、以外にも否定の言葉が返ってくる。
「いや、もう使わない。あれはかなりの魔力を使うのだ。二回も、それも一つは上位のものを使ってこれでは倒す前に魔力が尽きるのが先だろう」
「打つ手なし、って聞こえるぜ」
「そうは言っていない。即効の毒」
濃い紫色の靄のようなものがネーフィストの長槍の穂先を覆った。
やがてそれは靄から漆で塗られたように纏わりつく。
「な、なんだそれ……?」
「穂先に毒を塗った。かするだけでも即刻死に至るだろう」
「物騒なもん付与してんじゃねぇよ」
ソードブレイカーがなければもっときつい闘いになるところだ。
銃を構え、遠距離攻撃の用意をする。
ネーフィストとの距離は役八メートル。
二倍速の効果があるとしてもこの距離ならば対応も容易だ。
ネーフィストは一歩踏み込む。
その次にはもう目の前にいる。
早い、が距離が手助けし、また目も慣れてきてため簡単に対処できるはずなのだ。
しかしネーフィストの言葉が脳裏をよぎる。
少しでも対応を誤れば毒に犯される恐怖が緊張感を生み、ミスを誘発する原因になっている。
下段から切り上げる攻撃をするネーフィスト。
この距離では焔壁を唱えたとしても、それより先に相手の攻撃が決まってしまう。
細心の注意をはらってソードブレイカーで押さえつけるように受け止める。
もう片方の手で銃で打ち込む。
「勝った!?」
半信半疑で出たロイの言葉に素早く否定が入る。
「否」
高速で弾丸を避けたネーフィストは銃身をつかむと、後方へと投げ捨てた。
「お前なにすんだ!?」
「これで同じ条件だ」
平等だとでも言いたいらしい。
「お前二倍速かかってるじゃねぇか!なにが同じ条件だ!」
「……それは魔法だから別だ」
「子供みたいないいわけだな!」
押さえつけた長槍の穂先を弾くと今度はロイからしかける。
受け身で今の長槍と戦うのは不利と判断したのだ。
攻撃としての毒は確かに脅威であり、その存在だけでも十分武器になりうる。
しかし防御としてはどうだろうか。
牙を防具として使うことを強いられた獣に果たしてそこまでの脅威を感じるだろうか?
槍、特に長槍は非常に小回りの利きにくい武器である。
ソードブレイカーはそれとは真逆の位置にいるほどの小回りの利く武器だ。
手数も多く、手早く素早く攻撃できるので、ショートレンジに入ってしまえば毒の仕込まれた長槍より凶器になる。
「ッッッ!」
縦に横に、縦横無尽にかけるソードブレイカーに苦しそうな表情で弾くネーフィスト。
長槍にとってはこれ以上ないほど窮屈な闘いの場だ。
押され押され、ずるずると下がっていく。
「まだまだッ!」
攻撃の手を緩めようとはしない。
だがネーフィストも場数は少なくない。
あと一歩かというところで最期を決めさせない。
ロイの体力を削り、甘くなった瞬間に叩く作戦だ。
ロいもそれほど体力に自信があるわけでもない。
息が切れてくると、次第に攻める回数、勢い、力が衰え始める。
だがロイには関係なかった。
ここだと思ったところで上からの全身全霊の一撃を放つ。
「うッ」
瞬間よろめくネーフィストだが、倒れるまではいかない。
それでいいのだ。
ほんのわずかな時間でもあけばロイは勝てると考えていた、そして現に買ったのだ。
「まったく、中に入るまでに疲れさすなよ」
別れの一言とともに最後の一撃を放つ。
銃から飛び出た赤い弾丸がネーフィストの硬い鎧を貫通した。
「がッ……」
なにか言いかけた口も倒れるとぴくりとも動かなくなってしまった。
「はぁ~疲れたぁ~」
と座り込もうとするが、フランカのことを思い出す。
振り返るとそこには戦闘を終わらせ、ロイの元へと寄っていたフランカの姿があった。
「ホントに二人倒したのね。倒されてると思ったけど」
「あいつ助けるまで死ねねぇよ」
フランカは首を傾げ質問する。
「あいつってだれ?」
フランカはまだ知らないのだ。
この闘いにロイが全線で参加している理由を。




