百三十一話 エリクフォルトの砦攻防戦 參
そのころロイの反対側でも闘いが起こっていた。
フランカとネーフィストだ。
リーチはネーフィストの長槍が圧倒的ではあるが、フランカには狐人特有の脚力があり、どちらも簡単には動けない状況であった。
「……そうやってずっとじっとしてるわけ?」
「さあな。自分から動けばいいだろう?」
ナイフを握りなおす。
たらりと汗が流れる。
息を深く吸って、ネーフィストをにらむ。
後ろではロイが戦っているのだろう、金属音がここまで届いている。
「あんたって本体なの?」
「さあ、それを教えては意味がない」
「いいじゃない、教えてよ」
「倒したらわかるさ」
顔色一つ伺わせないネーフィストは淡々と答える。
だがそこにも隙は生まれなかった。
こちらから動かなければ進展はないようだ。
待つのが嫌いなフランカはしびれを切らし、ついに一歩を踏み出した。
そこから乗ったスピードは人間では到底追いつけないほどの、風にも勝る速さで走った。
甲高い音が鳴った。
フランカのナイフを受け止めたのは、長槍のちょうど中央のあたり。
「確かに早いが……力がないな」
いとも容易く受け止めた。
二倍速の効果を受けているため、より楽になっている。
「スピードだけなら対応は難しくない」
「ごちゃごちゃうるさいわねぇ!非力はもとからよ!」
腕に精一杯の力を込めるがびくともしない。
「非力か、仕方ないな。女だから」
フランカはその言葉にかちんときた。
それはフランカに対して、最も言ってはいけない一言である。
「てめぇ、今なんつった?」
驚くほど低い声だ。
先ほどのにらみよりもさらにすごい剣幕となっていた。
言葉遣いの変化は本人でも気づいていない。
「……殺す」
呟いた後、すぐに行動に移した。
目にもとまらぬ速さで背後に回ると、一撃をみまう。
「くっ……!」
なんとか長槍ではじくのが限界であった。
それは二倍速でも追いつけないほどだった。
穂先とは魔反対の石突きで薙ぎ払おうとする。
「遅いわ!」
怒り狂ったフランカを止める術にはならなかった。
ひょいと避けると、もう一撃、もっと力を込めた攻撃を放つ。
大きく振りかぶってありったけのちからをぶつける。
「うがっ……!」
正面に振り向いて長槍の手持ち部分で受け止めたはずだった。
だが長槍は綺麗に真っ二つになってしまった。
フランカの連撃はとどまるところを知らない。
二撃、三撃と硬い鎧に打ち込んでいく。
それdめお刃こぼれなどしない。
鎧よりもナイフのほうが硬いからだ。
「これでとどめっ!」
槍よろしく突くと、ついにネーフィストは地面へと倒れた。
地面に当たる瞬間、煙になってすべてが消えていく。
「だから女とか関係ないって。ここはそういう場所でしょ?」
ようやく怒りが収まり、元の口調へと戻る。
見ると、そこにはなにもついていない、新品のようなナイフがあった。
「ホントにこれすごいわね……」
ふう、と一息ついて、ロイのほうを見る。
そして誰に聞かせるわけでもなく言う。
「助けに行く……までもないか」
ナイフを腰についている鞘にしまうと、ロイの元へと歩いて行った。




