百三十話 エリクフォルトの砦攻防戦 弍
「かかった!」
素早く銃を向けると、満面の笑みで迎え撃つ。
弾丸はネーフィストを捉え、貫通した。
跡形もなく消え失せる。
それは作られたほうのネーフィストであることを意味する。
「フランカッ!」
叫ぶよりもフランカは反応していた。
さすがは狐人である。
俊敏性、反応速度などロイなど足元にも及ばない。
魔法がかかったネーフィストにも匹敵するかもしれない。
長槍での薙ぎ払いをひらりと躱す。
対象的にフランカはナイフで針に糸を通すような繊細な一撃を繰り出す。
鎧の隙間を狙うものだ。
「ッッ!」
第一の分身が破られたのが予想以上に早かったらしい。
崩れた戦術を立て直すために距離を離そうとする。
「そうは行くか!フランカ!」
「わーってるわよ!」
なんやかんやで息のあった攻めをみせる。
畳み掛けるなら今が絶好の機会だ。
だが踏み出した瞬間に、ネーフィストは不敵な笑みを浮かべた。
「第二の分身」
ネーフィストの隣に先ほど同様に分身が現れた。
「何回やっても結果は見えてるぜ!」
先に気づいたのはフランカだった。
「危ないっ!」
カンッ!と金属音が鳴り響いた。
あと数秒でも気づくのが遅れていたらロイは胸を一突きされ、この世にはいなかったに違いない。
フランカが穂先にナイフを当てて軌道をずらしたのだ。
「た、助かったぜ……」
「さすがは狐人。気配を読み取ったか?」
後ろにもう一人、三人目のネーフィストがいた。
「だし惜しみしてたのか?」
「違う。試したのだ」
本心はどうか定かではないが、少なくともこの男から見栄を張っている様子はない。
前方には二人、後方に一人。
フランカと背中合わせに対峙する。
「俺が二人、そっちが一人だ」
「死んだらちゃんと供養してあげるから」
「縁起でもないこと言うんじゃねぇ!」
それを見て、ネーフィストは言う。
「戦場でさえその余裕か。さすがだな」
「あんたも試したり余裕そうに見えるけどな」
しばしの沈黙が訪れる。
風が鳴り、それぞれの髪が揺れる。
ロイの前にいる二人のネーフィストは全く同じ揺れ方で気味が悪い。
「俺らはこんなとこで立ち止まってる暇はないんだ。さっさとケリつけようぜ」
「悪いが要求には応じられない」
「そっちの了承なんかいらねぇぜ!」
ネーフィストめがけ駆ける。
敵は二人。
ならば数を減らすのが定石だ。
そうと決めたロイは右のネーフィストに狙いを定めた。
「焔壁(フランメヴァント!)」
左のネーフィストと右のネーフィストとの間に作り出す。
少しでも時間を稼ぐためだ。
長槍の穂先とソードブレイカーがぶつかり、快音が響く。
「ッッッ!!」
「……」
早くしなければ焔壁を使う魔力の減少、もう一人のネーフィストの襲来がある。
魔力がまだ残っていることを確認し、魔法を唱える。
「影刃!」
死角からの鋭利な一撃がネーフィストを襲う。
が、ネーフィストを守ろうと焔壁の端から現れたネーフィストが代わりに攻撃を受ける。
「面妖な魔法を使うな。闇属性か」
「その通り。これで一対一だ」
しかしそれでもネーフィストは余裕がなさそうには見えなかった。




