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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第三章
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百二十七話 攻略前日

「ほら持ってけ。ご注文通りのソードブレイカーに細身のナイフだ」

「おお、サンキュ」


 コスタスの店の前で、鞘に包まれた二つを受け取る。

 以前に頼んでおいた代物だ。

 ひと悶着あったが無事にここまでこぎつけることができた。


「もう二度と折れる心配はねえぜ。ただ手入れはしとけよ」

「ああ、わかってる」

「代金はクラインでいいんだよな?」

「おう」


 少し心が痛むところがあるが気にしない方針でいこう。


「あとこいつは餞別だ。とっとけ」


 コスタスが手渡したのは四角形のお守りのようなものだった。


「大きい声じゃ言えねぇが、黒淵石シュバルツティーフェでできてる。ちょっとやそっとじゃ壊れねえ。護符にはぴったりだろ」

「こんなものどこで?」

「あん……こっちにもいろいろ事情ってもんがあんだよ」

「そうか。じゃあ聞かなかったことにしといてくれ」


 手渡された護符を見る。

 重さはあまりない。

 これが本当に世界で一番硬いのかと疑うほどだ。

 黒淵石シュバルツティーフェは太陽の光を浴びて、特有の黒光りをしている。

 反射はない。

 光がすべて吸い込まれていっているみたいだ。


「……まあ、こんなものをほしがるんだ。だいたいどこに行くかぐらい見当ぐらいつく。その、なんだ、こんなこと言うのも柄じゃあないんだが……生きて帰って来いよ」


 頭をぽりぽり掻いて、顔を背けながら言った。


「大事な顧客だ。失うには惜しいしな」

「えっ?止めたんじゃなかったのか」

「もしお前がほかの武器がほしくなったらどうするんだ?俺以外に腕のいい奴なんてジークリンデにしかいねぇぜ」


 表情を崩して高笑いをした。

 つられてロイも笑う。


「それにしてもお前ここ数週間で変わったよな」

「そうか?」

「見違えるほどだ。来たときなんて死んだ陸竜ラントドラッヘみたいな顔だった」

「言いすぎだろ!」


 手を振ってコスタスは答える。


「ホントだ、ホント。でも今はキリッとしてんな。これなら大丈夫そうだ」

「だろ?」

「ま、もともとの顔はワシが若いときのほうがはるかにいいがな」

「今勝ってりゃいいんだよ!」


 大人特有の昔は~理論だ。


「そろそろ行くよ」

「おう。また顔見せろよ」

「当たり前だ。じゃ」


 大通りを出て、隠れ家へと向かう。

 明日はいよいよ作戦開始だ。

 この二週間で積み重ねてきたことがきっと役に立つと信じてやってきた。

 強い日差しが照り付ける。

 だが一瞬だけそれが途絶えた。


「よっ」


 目の前に現れたのはレノーレだ。


「どこから来てんだ?」

「屋根だ。まだ一応アウトロー扱いだからな」

「だからってわざわざ屋根からこなくても……」


 その身軽さがほしいぐらいだ。


「明日だろ?」

「ああ」

「こっちは教えられることは全部教えた。あとはお前次第だ」


 こくっと頷く。


「そう強張った顔すんな。気楽にいけ」

「了解」


 レノーレに笑って見せる。


「そうだ。それでいい」

「それだけを言うために来たのか?」

「これより大事なことなんてなかなかないぞ。いつもおちゃらけてるくせにこういうときに弱いのがお前の特徴だ」

「ぐっ……確かに」


 そのたびにアリアスに励まされたりしてたなぁ、と思う。

 今回でそれが痛いほどわかった。

 背中をを強く叩かれる。


「いってぇ!

「ビシッといけ、ビシッと!」

「お、おっす!」

「じゃあな」


 言うと大通りへと消えていった。

 そうして帰るならべつに屋根から来なくてもよかったんじゃないですかね?

 太陽はいまだ激しく照り付ける。

 それに向かって、誰に言うでもなく呟く。


「待ってろよ、アリアス」

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