十二話 束の間の日常
「……イっていっつも起きなくてさあ……」
「……なんですか。やっぱりロイさんらしいですね……」
前にもこんな事があったな。
「おい、聞こえてるぞ」
「起きてるんなら返事ぐらいしなさい」
「起きたぞ」
「遅いわ」
場所は違えど朝は毎度このやりとりがある。
のそりと立ち上がる。
「で、飯は?」
「だから今から行くんでしょ」
「じゃあ行くか」
ロイは魔遺物を持とうとした。
それには昨日まで付いていなかったベルトのようなものが付いている。
「あたしが朝作っておいたわ。これで運びやすくなったでしょ?」
ロイは頷くだけにした。
話すと不思議がられてしまうからだ。
三人とクロエはロイの部屋を出た。
「あれ?セシリアは」
「あまり大勢の前に姿を現すのは苦手なもので、食事は後で持っていきます」
「そんなんだ」
「いつも妹の事を心配してくださってありがとうございます」
礼儀正しく人間のお手本のような人物だ。
「どういたしまして。それより大勢ってそんなにいるの?」
「はい。聞いた話ですが」
さすがは帝国に反抗している組織だ。
それにクラインは支部と言っていた。
本部もどこかにあり、またここよりも大勢の人がいるだろう。
もっと早くその事を知っておきたかった。
話していると、深夜アリアスといた食堂に着いた。
そこはいくつかの道から来れるようになっていて、入るための戸はなく開放的な空間である。
近づくにつれ談笑の声が大きくなっていく。
だがはっきりと三人の姿が見えるとぴたりと静まり返った。
値踏みするかのようにじっくりと三人を見ている。
「す、凄い視線を感じる……」
「ええ、そうですね」
「ラーシャって慣れてる感じ?」
「はい。日常がそうでしたので」
隣の王女様は例外だが、これだけ見られると萎縮してしまう。
視線を受け続けながらもどうにか中へ入っていく。
ここの食堂はカウンターにいる人にメニューにある品を注文する仕組みだ。
金は払わなくてもいいらしい。
ここのメンバーであれば無料との事だ。
「へえ、あんたらが新入りかい。よろしくな」
「はは。こちらこそ」
作り笑いが下手だと自覚はある。
メニューは豊富で三人とも違う物を頼んだ。
トレイに乗った料理を受け取り席を探す。
その頃には人が減って容易に座る事が出来た。
皆でいただきます、と言って食べ始める。
「おいしい」
「確かにおいしいですね」
「まっ、アリアスには負けるけどな~」
「ちょ、ちょっとやめて。恥ずかしいじゃん」
アリアスは顔を赤く染めた。
まあ、事実かと言われたら答えを保留にする問題である。
会話を交え久しぶりのゆったりとした時間。
「おい、ロイ。時間あるか」
振り返るといたのはクラインだった。
「ああ、ある」
「なら俺とこい」
有無を言わさぬ物言いだ。
「悪い。ちょっと行ってくるわ」
と二人に告げてクラインと共に食堂を後にした。
つれて行かれたのはロイの部屋以上に殺風景の場所だった。
天井は肩車しても全く届かないくらい高く、広さも端から端まで走ると息切れするぐらいだ。
「こんな場所までやってきて何をするんだ」
「いきなりそれを聞くか」
「早く本題に入ってくれ」
昨日の一件でロイはクラインに対し、あまりいい感情は持っていなかった。
「そうだな。そろそろ言ってやろう」
「だから早く言えって」
クラインは溜めに溜めてから言った。
「ここでお前と俺との一対一。サシで勝負だ」
「はあ!?」
いきなりの宣戦布告に、ロイは開いた口が塞がらなかった。




