百二十六話 報告
クラインの部屋で、一人の男の怒号が飛ぶ。
「なにいぃぃぃいいい!!」
その部屋の持ち主であるクラインだ。
「と、まあ驚いてはみたが実際疑わしかったのは事実だ」
「演技かよ紛らわしいな。だいたい疑ってたならそんな奴を同行させるなよ。こっちは危うく死にそうになったんだぞ!」
怒りにかられるロイにをなだめようとラーシャが言う。
「ま、まあ、結果的には大丈夫だったんですし……」
「いや、いい、ラーシャ。今回は俺のミスだ。まささそのときに化けの皮が剥がれるとは思わなかった。すまない」
真摯に受け止めるクラインは、深々と頭を下げる。
そんな姿を見るのは初めてであった。
「お、おう……」
それ以上何も言えなくなくなり、もどかしさが残る。
「情報は必ず役に立てる。ご苦労だった」
ロイはその 言葉を聞くと、一言も声をかけないまま、部屋を飛び出した。
「……」
難しい顔をするクラインにお願いをする。
「少しセシリアを見ておいてはいただけないでしょうか?」
「あ、ああ。構わんが……」
「お願いします」
飛び出したロイを追うようにラーシャも部屋を出た。
「……」
「……」
「……私もう帰っていい?」
気まずい空気に耐えられなくなってフランカはこぼすように言った。
洞窟のような廊下を足早に進んでいくロイ。
後ろからラーシャの呼ぶ声がする。
「ロイさん!待ってください」
探して回ったのだろうか、息をきらしている。
「どうしたんですか?いつものロイさんらしくないではないですか」
「なんでもない」
「とてもそうに見えませんが」
「……」
だんまりを決めこむ。
らちが明かないと、話題を変える。
「アリアスさんに会ったんですよね?話し聞かせてもらえませんか?」
「……ああ」
「ここではなんですので、私の部屋に行きましょう」
頷いてラーシャの後ろについていく。
部屋は綺麗に整頓されており、ロいの部屋とは全く違うように見えた。
ロイは椅子に座って、ラーシャはベッドに座った。
「本当にあったんですよね」
「ああ、元気にしてたぞ」
あのときの光景が思い出される。
距離は触れられるほど近いのに鉄格子に阻まれ、途方もない遠さに感じた。
「そうですか」
微笑みながら聞くラーシャ。
自分のことであるかのように嬉しそうでいる。
「でもあんまし話せなかったなぁ。追われてたし」
「私たちを逃がすために立ち向かってくれましたし」
「実は言うと気をそらすために、囮になって逃げただけだけど」
照れ隠しに謙遜する。
「でもそのおかげでわたしたちは無事に逃げることができました」
「こっちはけっこう危なかったけどな。途中でフランカが来てなかったらどうなってたか」
「フランカさんも随分心配そうでしたよ。あいつやられてるんじゃないか~、って」
「予想的中ってわけだ」
なにに怒っていたか忘れるほど笑顔であ話していた。
話も尽きてきたところで、別れを告げる。
「じゃ、また明日」
「はい、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
さっきまでの不機嫌は治っていた。
自分がそれに気づいたのはラーシャの部屋を出たときだった。




