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愚者の復讐  作者: 加賀谷一縷
第三章
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百二十四話 砦の偵察⑥

 振り返らずにはいられなかった。

 その時だけはここが敵地であるとか、追われているなど頭から完全に抜け落ちていた。


「アリアス……!」


 鉄格子の向こう、囚われの身だが、変わらない姿がそこにあった。


「ロイ……遅いじゃない」


 拍子抜けするほど明るく、また普段の会話だった。

 それでもロイは嬉しかった。

 思わず顔がほころぶ。


「その言い方はねぇだろ」

「もう少し早いかなぁ~って思ってたけど」

「こっちもいろいろあったんだぜ!?話したいこともたくさ……」


 またあの足音だ。

 しらみつぶしに探しているようで、徐々に近くの扉があく音がする。


「くそっ、いま出すからな」

「無理よ。私の魔法でも壊せなかった特別仕様よ。その銃にそれ以上の威力が出せるならいいけど……」


 せっかくこうして会えたのにまた離れなければならないと、悟った。


「私は殺されないと思うけどロイは違うでしょ?それに前に言ってた精?の説明もされてないし。とにかく逃げて」

「……すまない」

「謝る必要はないわ。また助けにきてくれるんでしょ?」


 笑顔を絶やさないアリアスが強く見えた。


「もちろんだ!」


 力強く応答して、背を向けた。


「帰ったらいなかった間に起きたこと全部話すから……」

「ん……楽しみにしてる」


 アリアスのしとやかな声が切なく感じた。


「じゃ」


 ロイは破壊する勢いで扉を開け、走り出した。


「貴様ッ!そこにいたのか!」


 呼び声を無視して長い廊下をただ走る。


 だがファニクスは追いかけようとはしなかった。


「なんでいかなかったの~?」

「知ってるだろ。人が悪いな」

「そうねぇ~。足が遅いからよねぇ~」

「……」


 少し口をまげてから言う。


「大丈夫だ。とある方がいる。ちょうど視察に来られてたからな」

「へぇ、それは誰なの?」

「十三史院の一人であるユスティン議員だ」



 どれほど走っただろうか。

 蛇行するようによろよろになりながらも走り続けた。


「もう来ないんじゃないの?」


 クロエが心配そうに声をかけると、足を止めた。

 膝に手をつき、せき込みながら呼吸する。


「柄にもなくやけくそになって走るからよ」

「……」


 汗が滴る感覚が嫌になり、手で拭う。


「やあ、君かい?ボクがいるっていうのに入り込んだ迷子は?」


 これから逃げようとしていた先から現れたのは、すらっと背の高い紫色の少し長い髪の男だった。


「誰だ?」


 睨むようにその男を見る。


「ボクかい?ボクはねぇ、ユスティン・ヴァイアーシュトラス。この名前を覚えておいてくれたまえ。数年後には誰もが知ってる裏の支配者さ!」


 明るい声色で自分を売り込む。


「誰もが知ってたら裏じゃねぇだろ」

「ほう。確かにそうだな。じゃあ表裏の支配者。これでどうだ?」


 妙案を思いついたように語りかける。


「んなことはどうでもいい。邪魔だから通してもらうぞ」

「いやいや、少しキミとは遊びたいね。ここまで潜り込んだ哀れな少年よ」

「でも武器がないぞ。どう戦うっていうんだ?」

「武器?そんな品のないものには頼らないよ。僕は一流、いや一龍の魔法使いだからね」


 その目は本気以外のなにものでもなかった。

 燃えるような深紅の目はしっかりとこちらを捉えていた。

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