百二十三話 砦の偵察⑤
上の階も風景は同じだった。
黒を基調としたデザインの廊下が延々と続いているようだ。
「どっちかわかんねぇ……」
「あっちじゃない?」
フランカは指をさした。
「ホントか?」
「……たぶん自信ない」
「とりあえず行ってみよう。間違えてたら全員死ぬからな」
「え、責任デカすぎない!?」
慌てるフランカ。
ラーシャが微笑んで言う。
「大丈夫ですよ。ああは言ってますけど、もしピンチになったら守ってくれますから」
「ええ、信用できないんだけど……」
「一応前に助けたんだから一定の信用度はあるはずだろ!?」
「強引に誘導尋問みたいな形で助けたって言われても信用度なんて上がらないわよ!」
強気に食ってかかる。
「まあまあ、話はそれぐらいにして、そろそろ……」
と、言いかけたところで、ふいに足音がする。
いやに不気味で、ゆっくりな歩き方だ。
「ファニクス……!」
いつもと変わらぬ冷酷な表情でこちらを見つめている。
「お前らだけで来たのか?」
ロイは少し間をあけた。
「ええと、な、ここまで連れてきた奴がどっかいったぞ」
「……は?」
「いや、そいつが裏切ったというか、そっちいったほうがいいんじゃないか?」
ファニクスは返事することなくレイピアに手をかけた。
「あくまでこっちってわけか。フランカ、ラーシャとセシリアをつれて逃げてくれ」
「え、でもロイは」
「俺なら大丈夫だ。一人のほうが気楽だしな」
「……もう。死体拾いこさせる手間かけさせないでよね?」
ははっ、と笑う。
「大丈夫だ。こう見えても運はあるからな」
「はいはい。じゃあ」
「ああ」
駆ける足音が後ろで聞こえる。
どうやら行ってくれたらしい。
「待ってくれるんだな」
「あまり女子供にお前が死ぬ姿は見せたくないものだからな」
「お優しいことだ。意外だぜ優男」
「慈悲は強者がくれてやるものだ」
鼻で笑って続けた。
「そろそろこの世とのお別れは済んだか?」
「そんなもんするわけねぇだろ。あと五十年は生きるわ」
ロイも銃を構える。
「勝算なんて……あるわけないわよね」
「当たり前だ!」
自信満々に答えた。
「だからこうするんだよ!」
赤の魔法陣からいくつもの赤色の弾丸が発射される。
それだけではとどまらず、魔法も唱えた。
「炎壁、隠れ煙」
どれも攻撃が目的ではない。
炎壁は防壁であり、隠れ煙も目くらましの一種だ。
となれば作戦は一つだ。
「逃げるぞ!」
「ええ……やっぱりね」
半分わかっていたようで、半音もなかった、というよりする元気もなさそうだった。
「くっ、卑怯者め……!」
さすがにこれには意表を突かれたようで、目をこすっている。
「へっへ~、お前みたいな奴と正面向き合って戦うわけねぇだろ」
ファニクスの横を颯爽と走り抜ける。
「くそっ!」
遅れながらファニクスはロイを追いかけるが、距離を離されてしまい見失ってしまった。
「はあはあ、ここまで来れば大丈夫だろ……」
とにかく遠くへ走ったロイは、偶然見つけた扉を開け、中に隠れていた。
しばらくは見つからないだろうと、息を整えるためだ。
「あんたかっこつけたわりには……もうなんでもない」
「でもこのことは知らない。俺は一人で立ち向かったというのだけがじじつとして残るのだ」
「わたしがあいつらと話せたら真っ先におしえてやりたいわ」
苦笑するクロエ。
そこへ別の声がかかった。
「……ロイ?」
声は透き通るほど美しく、ロイが一番聞きたいと願っていた人物のものであった。




